ホーム 『モルテン食いたりないよね^q^』田辺青蛙 第14回 解剖のヴィーナス Page 1



第14回:解剖のヴィーナス


朝起き、ホテルの周辺を歩いていると銀色のラメが縁についたド派手な仮面を被ったアジア系男性に声をかけられた。

「えーっとお、アーユー、ジャパニーズ?」

「あ、はい、日本人です」

「もしかして、クリリンさん?」

「えっ? 違いますけれど」

「ごめんなさい」

そこから50mほど歩いた場所で、また別の日本人と思わしき男性に声をかけられた。

話を聞くと、彼らは『ジョジョの奇妙な冒険』のファンで、原画展を見るつもりでネット上で知り合ったファン同士のオフ会の企画を行ったらしい。

今回のオフ会ではEU内のジョジョファンと日本からのジョジョファンが一同にフィレンツェで集合する予定なのだという。

お互いオンライン上のチャット仲間で、顔も本名も知らず、待ち合わせの時間が来たけれど、クリリンというHN(ハンドルネーム)の女性がまだ来ておらず、先ほどLINEのアプリから、道に迷ったという連絡が入ったので、もしかしたらと思って声をかけたのだそうだ。

「フィレンツェって似たような石造りの建物が多いから迷いやすいですよね」

「そうですね。ドゥオーモ周辺で待ち合わせっていっても、これだけ大きな建物じゃあ、すれ違ってしまう可能性がありますしね」

しばらくそんな感じの会話を続けたあとに、私が仙台の原画展で購入したT-シャツを着ていることに気が付いたのか「ジョジョ、好きですか?」と聞かれたので「はい」と答えた。すると、仮面の男性と、そのオフ会仲間の別の男性が目の前で急に「ジョジョの奇妙な冒険」の作中のキャラクターのポーズ、すなわち、ジョジョ立ちを披露しはじめた。

周りの人は、何かパフォーマンス・アートが始まったのかな? という風情で何名か立ち止まりはじめ、私もジョジョ立ちにはジョジョ立ちで応えるべきなのだろうかとちょっと迷ったのだが、恥ずかしかったので、結局やらず仕舞いだった。

もうあの日から数年が経ってしまったけれど、未だにあそこでやるべきだったのかなあと思い返してしまう。

ジョジョ立ちをする私(空想中)
ジョジョ立ちをする私(空想中)

彼らと別れ、無事クリリンさんに会えることを祈りながら、足元でトラップのように広げられるポスターを踏まないように注意しながら散歩し、近所のスーパーでパンとオリーブオイルを購入して、ホテルに戻って夫と二人で食べた。

お昼を少し過ぎた頃に、二度目の原画展に行き、近くの教会を見てからオープニングパーティーの席で、荒木飛呂彦先生にお勧めされたフィレンツェの観光スポットに向かった。

その場所の名前は、ラ・スペーコラ(La Specola)博物館。

スペーコラ博物館の表札。位置が高いし目立たない
スペーコラ博物館の表札。位置が高いし目立たない

人体解剖蝋人形で有名な博物館で、イタリア国内でも知られた場所だという。

iPhoneの地図アプリで場所を確認しながら辿り着いた博物館の入り口は薄暗く、何故かリュウグウノツカイとナマケモノと象がプリントされた幕がかかっており、階段を上がるとイタリア語しか話せない受付の人がいた。

何か一生懸命説明してくれたのだけれど、私の貧弱な語学力では辛うじてボンジョルノが聞き取れたくらいだった。私達は指を2本立てて2枚切符、入場料と伝えるとレジに数字を打ち込んで、金額を教えてくれた。

チケット代を払い終え、中に入ると一面ガラスケースが通路に沿って並び、中には大小様々な剥製の動物が飾られていた。

階段を上がると入り口です
階段を上がると入り口です

延々とガラスケースが続く
延々とガラスケースが続く

美大の学生なのか、床にあぐらをかいて熱心に剥製をスケッチしている若者の姿があちこちで見られた。

展示物は剥製だけでなく、大きな真珠貝や珍獣のキメラ、ホルマリン漬けの蛙や蜥蜴(こうもり)もあった。

フグの剥製
フグの剥製

ラッコの剥製
ラッコの剥製

亀の剥製
亀の剥製

蟹だってありますよ
蟹だってありますよ

鳥の剥製だらけの部屋
鳥の剥製だらけの部屋

貝の展示品
貝の展示品

ホルマリン漬け
ホルマリン漬け

親子連れで来ている人も多く、途中で剥製を見飽きた子供がガラスケースの周りで走り回ったり、兄弟でかくれんぼをして遊んだりしていた。

中には剥製が怖かったのか大声で泣いている子もおり、なんだか来客を見ているだけでも楽しめた。

延々と続くガラスケースに入った剥製をたっぷりと観た後、やっと蝋で出来た解剖模型の展示品が姿を現した。

荒木飛呂彦先生から、あまり実際の人間の解剖図に写実的に作られたというようには見えず、内臓等の器官によってはやや抽象的に作られているけれど、とっても色気のある解剖図だよというようなことを伝え聞いていたとおり、実際目にすると、内臓部分は本当にこんなのかな?という気がして、医学的にどうこうというより、何だか色っぽい中間表情と髪を弄っている指がやけに気になった。 

解剖のヴィーナス
解剖のヴィーナス

艶めかしい足
艶めかしい足

人体解剖蝋人形の展示スペースには女性が多く、あまり男性の姿は見かけなかった。

こういった作品を好むのは、もしかすると男性より女性の方かも知れない。

実際、階段で血の気の失せた表情で、もうウンザリといった感じの男性の姿を見かけた。

まあもちろん、私が訪れた日がたまたま女性客が多かったという可能性もあるけれど、うちも夫より私の方が解剖のヴィーナスに強く惹かれてしまっていた。

お土産屋さんで、解剖図の絵葉書や図録を購入し、ホテルに戻った。

明日は電車でローマへ移動する。

ローマではホテルでなく、アパートに滞在する予定だ。

iPadで「ローマの休日」を見ながら、どんな観光をしようかと夫と意見を交わした。

夫はバチカンを見たいと言い、私はローマの遺跡を見て回りたいと主張した。

この時は2人とも、ローマでどんな悪い目にあうかなんてことは何1つとして想像すらしていなかったのだ。

目次へ

目次へ

「モルテン食いたりないよね^q^」田辺青蛙
第14回 解剖のヴィーナス

目次  1