ホーム 『モルテンおいしいです^q^』田辺青蛙 第2回 モルテン、羽ばたきます Page 1


田辺青蛙

『モルテンおいしいです^q^』

第2回:モルテン、羽ばたきます


アメリカ旅行に行く直前、夫に対談の予定が入った。

対談相手は、私が長年子供時代から憧れていた、少年漫画家の先生だったので、私もちゃっかりと着いて行くことにした。


2人の対談は2時間ほどで終わり、軽くこれからの旅の話となった。

「これからアメリカに行くんですよ。最初にシカゴに入って、その後『カリフォルニア・ゼファー』っていう電車でサンフランシスコに向かう予定なんです。
途中、電車は延々と荒野を突っ切って進むらしいんですよ」

そう伝えると、夫の対談相手の漫画家は優しく微笑みながら、机のiPhoneを指さしてこう言った。

「これ、大丈夫ですか?」

「大丈夫とは?」

「実は、以前車でアメリカ大陸を旅行したことがあるんです。

あれは人生観変わりましたよ。

50度を超える炎天下の日は車の中でずっと、直射日光をうずくまるようにして避けて、電話をお腹に当てて壊れないように冷やしていたんです。

ほら、外気温が50度で、体温が36度5分だから、体に当てた方が涼しくて電子機器にはよかったんですよ」

「50度!」

日本では聞きなれない気温に絶句し、不安を抱えつつ、漫画家の先生と別れ、私と夫は旅に向けて、とりあえず情報収集を始めた。

この先乗る予定の『カリフォルニア・ゼファー』の本と、イベントで行く予定の街、シカゴに関する本を書店でとりあえず集め読むことにした。

残念ながら『カリフォルニア・ゼファー』関係の本は少なく、ネット上での旅行情報も多くはなかった。

きっと日本からわざわざ乗りに行く人なんて、ほとんどいないせいだろう。

そもそも万年赤字路線で、アメリカ国内でも利用者が多くないらしい。

カリフォルニア・ゼファーは、シカゴにあるユニオン駅から、カリフォルニア州のエミリービル駅までを結ぶ大陸横断鉄道で、走行距離は約3,924 km、2泊3日の間荒野や森を駆け抜ける。ゼファーとは西の風を意味する言葉らしい。

開通したのは1948年頃という歴史のある路線だそうな。


「なんか、行く前から不安になって来たね」

「最悪の場合、本を読みながら車内でずっと寝てようよ。

どうやらこの電車、カーテンとエアコンが付いているから、流石にいきなり50度になったりはしないと思うよ」

「でも、カリフォルニア・ゼファーって、10年前に造られた車体らしいから、中がものすごくボロいかも知れないじゃん。もしカーテンが擦り切れてて、エアコンも壊れてたらどうすんの」

「そこは気合いで……そもそも君は今回の旅行のこと体験記に書くんでしょ。

大変な目にあった方がおいしいんじゃないの?」

「そ、そうかも」

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