ホーム 『日本全国津々うりゃうりゃ〈休暇強奪編〉』宮田珠己 第20回 鹿児島2 Page 5

2日目もいい天気である。

仁王をひとつ見た後、われわれが向かったのは、都城市にある弥五郎(やごろう)どんの館だ。霧島はほぼ素通り。九州でも有数の観光地だが、個人的に何度か来ているので割愛した。都城は宮崎県だけれども、どうしても弥五郎どんが見たいので、ここだけ少し鹿児島県を逸脱する。

弥五郎どんとは、身の丈4メートルの巨大な人形である。

11月に行なわれる的野正八幡宮(まとのしょうはちまんぐう)の例大祭(いわゆる弥五郎どん祭り)において、八幡宮から600メートル離れた池之尾社まで引いていかれる。これを「浜殿下(はまくだ)り」と呼ぶそうだが、とにかく驚くのはその人形の異様な姿だ。今でこそ高さ4メートル程度では、お台場のガンダム像(18メートル)どころか、名鉄名古屋駅のナナちゃん(6・1メートル)よりも低く、大きいとは感じられないものの、館内に展示してあった弥五郎どんは威圧感があって、表情に何を考えているかわからない雰囲気もあり、好感が持てた。

こういう祭りや民俗芸能で大事なことは、この世のものでなさ、異形っぽさであって、その意味で弥五郎どんは十分に資質を満たしている。こういう人形は不気味であればあるほどいいのである。

ちなみに弥五郎とは、大和朝廷に滅ぼされた隼人(はやと)族の首長の名であり、朝廷側が平定後、祟りを鎮めるために放生会(ほうじょうえ)を行なったのが弥五郎どん祭りの起源と言われている。

現在では、宮崎と鹿児島の合計3ヶ所で祭りが行なわれており、われわれはもう1ヶ所鹿児島県曽於(そお)市の道の駅にある弥五郎まつり館にも行ってみた。

ここの弥五郎どんは、的野正八幡宮のものよりさらに大きい6メートル。腰に2刀をたばさみ、その表情もますます得体が知れず、頭に鳥みたいなのが乗っていて、味わいが深かった。

道の駅は広い公園になっており、丘の上には高さ15メートルの巨大弥五郎どんまであって、そこにも頭に鳥があるのがキュートだ。

そんなわけで私は弥五郎どんの巨大さと異様さを面白く見たのだが、テレメンテイコ女史の見方は少し違うようだった。

「津軽の立佞武多(たちねぷた)なんかに比べると貧相ですよね。あっちは高さ20メートル以上あって華やかだったけど、弥五郎どんはそれに比べると簡素で、鹿児島はやっぱり貧しい土地だったんだなと思います」

「このぐらいのものしか作れなかったと?」

「そうです。鹿児島には昔から農民や商人の建てた御殿がないんですよ。大きな屋敷は全部武家屋敷です。東北には○○御殿とかあるでしょう。経済が豊かだった証拠です」

さすが地元なだけあって、今回のテレメンテイコ女史はいつもと違い、鋭い考察をしてみせた。

一方、私はただの観光客だから、そんな話に関心はなく、見た目勝負である。たしかに津軽の立佞武多と比べると派手さも大きさも劣るかもしれないが、私には弥五郎どんも興味深い。むしろその洗練されてなさに、いい知れぬ味を感じる。不気味な感じが残っているところがいいのだ。

鹿児島に何の縁もない私だが、実は弥五郎どんは子どもの頃から知っていた。いつ何で知ったのか記憶にないけれど、子どもの頃の記憶にあるのは、相当不気味な感じを覚えたからだと思う。それはただ巨大な人形というだけでなく、得体が知れない感じというか、あらぬ方を向いて何を考えてるかわからない、魂があるのかないのかわからないものであり、自分はなんだかそういうものが昔から好きらしいのだった。

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「日本全国津々うりゃうりゃ〈休暇強奪編〉」宮田珠己
第20回 鹿児島2

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