ホーム 『日本全国津々うりゃうりゃ〈休暇強奪編〉』宮田珠己 第18回 四国横断4 Page 3

さて、旅は終わりに近づいている。ここから一気に四国の西半分を横断してしまおうと思う。

立ち寄りたいのは仁淀川である。

四国の川と聞くと、最後の清流と呼ばれる四万十川をまっさきに思い浮かべる人も多いようだが、清流という意味では仁淀川を忘れることはできない。

仁淀川は、国土交通省の調査で、全国の1級河川の中で最も水質の良好な川のひとつに選ばれており、最近はその水の青さが仁淀ブルーと呼ばれ、だんだん有名になってきた。

その仁淀ブルーが見たい。

調べたところ、仁淀ブルーのすごさを実感できるスポットとして、にこ渕(ふち)、安居(やすい)渓谷などが挙げられている。それぞれ仁淀川の支流にあって、車で見に行くことができる。

で、まずはにこ渕へ向かった。

もともと狭い国道から、さらに脇道に入り、小さなダムの横を通って山道の途中に車を停めると、そこからロープを伝って斜面を下りる。にこ渕という看板が出ていた。

腰が痛いのにそんな冒険はしていられないと思ったが、下りないと渕なんかまったく見えないので、平気を装い下りていった。

何かで聞いたのだが、ぎっくり腰は、痛むぞ痛むぞと、痛む前から勝手に緊張するのがよくないそうで、そうやって固くなることで腰も固まるのらしい。であるなら、気にしない、もしくは無視する、つまり腰痛はないものと考えて敵を欺くことが肝心である。腰などまったく気にしていないという鷹揚な態度が、実はもっとも効果的なのである。

これはかねて私が推奨している「晴れ男になる方法」と同じ構造で、晴れてほしいときに雨が降りそうだからといって、ガタガタ騒ぐのはもっとも悪手で、かといって晴れろ晴れろと念じるのも敵の反感を煽るという意味でおすすめできない。そうではなく、私は雨が降ってもちっとも構わない、本当に晴れてほしいのは別の日なのだワッハッハ、というぐらい何くわぬ顔で、雨サイドの裏をかくのが最良である。これはウソではない。私の経験上、統計的に有意な効果が認められている。天候は心理戦なのだ。

ぎっくり腰もそれと同じということは、いかに私が今ぎっくり腰など気にしていないか、それが取るに足らない問題であるかを顔でアピールするのが重要である。気にしていない、もしくは、自分より他人のことを心配しているふうを装うのもいい。

「テレメンテイコさん、大丈夫ですか。足元危ないので気を付けてください」

「宮田さん、腰は大丈夫なんですか」

「は? 何のことでしょう。腰なんて最初から、あっ、ちっとも……う……」

「痛そうですけど、大丈夫ですか?」

「テ、テレメン……テイコさんこそ、だ、大丈夫ですか……」

そうして私は敢然と斜面を下りていったのだった。その姿は勇猛果敢な兵士のようであったという。

たどり着いたにこ渕は、想像を上回る青さだった。

テレメンテイコ女史も、すごい! と声をあげた。

触れると青く染まりそうなほど。まるでインク壺のようだ。

用意しておいた防水デジカメを突っ込んで撮影してみると、かなりの透明度だった。

渕の中を撮影して、これほど先が見えるのは珍しい。さすが仁淀ブルーだ。

私はこの防水デジカメで何枚も写真を撮影したのだが、そのためには不安定な岩の上で何度も水辺にしゃがむ必要があり、当然腰の扱いには注意を要するべきである。なのだが、本当の話、あまりにきれいな水にわれを忘れ、ぎっくり腰を忘れ、何度も立ったりしゃがんだりしても平気だったのである。

やはり天候とぎっくり腰は心の問題ということが、これによって証明されたのだった。

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