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さて、説明が終わるといよいよ発進。

正面に仮面ライダーカブトみたいな角のついた小さな乗り物は、人が歩くより遅いぐらいのスピードでゆっくり動き出した。

奥祖谷観光周遊モノレール
奥祖谷観光周遊モノレール

すぐに森の中へと入っていく。道路をひとつ跨ぐと、そのまま急斜面をぐんぐん上った。カタカタコトコト。レールも細く、乗り物も小さいわりには力強い。周囲は森。見えるのは木々だけだ。

ちょうどこの日は新緑の時期だったのと、天気も晴れて木漏れ日が射していたのとで、気分は良かった。途中とくに何もないが、森林浴だと思えば悪くない。

カタカタコトコト、森の景色に変化はない。沢とか池とか大きな岩とか、そういうものも何もなく、ただひたすら森。

退屈かというと、そうでもなかった。むしろ面白い気がしてきた。単純に、こういう小さな乗り物に乗っていること自体が面白い。

いったいなぜトロッコやリフトでなくてモノレールにしたのか考えていて、それは順序が逆なのだと思いついた。

それはこういうことだ。

山がちな日本では、山間の村などに、急こう配の斜面を登るためのモノレールが設置されていることがある。ここ奥祖谷にもあるようで、それらは、農作業用だったり、自宅と駅やバス停までの往復用だったり、そのほとんどが個人用だ。つまりこのタイプのモノレールは、たまに見かけても一般の人間は乗ることができないのである。

だが見た側は、遊園地のアトラクションみたいだから、ちょっと乗ってみたい。珍しい乗り物があれば、なんであれちょっと乗ってみたいのが人情である。

そこで誰かがひらめいたのだ。

個人でモノレールを所有していない一般人のために、思う存分乗れる施設を造ったらどうだろう。

つまりこのモノレールは景色を眺めるためというよりは、ただ乗るためだけに造られたのにちがいない。思う存分個人用のモノレールに乗って好奇心を満足させたい、そんな人のために。

であるなら、なるべく長く乗り心地を味わいたい。ということで65分。

そう考えると、実に理にかなっている。市場のニーズにマッチした乗り物なのであった。

いったい何のためにこんな場所でモノレールに乗るのか、などと疑問に思う必要はなかった。そこにモノレールがあるから乗るのだ。

おお、私は今モノレールに乗っている。なんか特別な感じだ。特別なことを体験できている感じがじわじわとこみあげてくる。

すばらしき哉、“関係者以外は乗れないはずのものに乗せてもらえた感”。

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第17回 四国横断3

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