ホーム 『ラヴァーズ・ハイ』カニリカ 第3話『豪遊する女たち』 Page 4

その中で、一人淡々とお酒を飲んだり、沙由美たちの話に静かに相槌を打っていたりしたのが、准だった。

「彼は本当にマイペースなんだな」

三人のマダムを見ながら、陶子は准の動向も気にしていた。沙由美は准をよっぽどお気に入りなのだろう。話は自然と准と陶子のことに向けられた。

「桐谷さんはこのお店、何回目? ジューンがお気に入りなのかな」

目は決して笑ってない沙由美に向かって、陶子はさっきの笑顔を真似して、口角を思い切り上げてみた。

「二回目です。このあいだ、初めて友達に連れてこられて」

「そうなんだ。どう、ジューンは? いいでしょう?」

「いいでしょう」の言葉がやたら湿気を帯びていて、質問の真意を陶子はとっさに呑み込めなかったが、賢い准は沙由美の意図をすぐ察し、さっと横から口を挟んだ。

「陶子さんとは、このあいだ店でずっと騒いで飲んだだけ。ね、ママ」

「そうよぉー。もう朝までオールよ。翌日二日酔いで大変だったんだからぁー」

「何だ、そうなの? 陶子さん、お酒強いのね」

いきなり沙由美の瞳から敵対心が消え、陶子さんと下の名前で呼びはじめた。そんな沙由美の性格を二人のマダムは熟知しているのか、笑いながら沙由美をからかった。

「サユ、大丈夫よ。誰も准のことは取りゃしないから」

「サユは准のことになると必死だから」

「そんなんじゃないわよ。ジューンはみんなのアイドルだもんねー」

そう言って、沙由美はうれしそうに准の肩を再び抱いた。なぜ、この人は「ジューン」と音を伸ばして呼ぶのか? それが妙に陶子の (かん)に障った。

揉め事が嫌いな准は、今この場で誰を一番盛り上げるべきかをわかっていて、すぐ実行に移した。

「陶子さん、沙由美さんはすごいんですよ。社員が三十人もいて。銀座の一等地にオフィスを構えているんです」

「そうなんですかー。わあ、かっこいいですね」

「この人、自分のことよりいつも社員のことを優先して。社員には休みをたっぷりあげるのに、自分は全然休まないんですよ」

「もう、やめてよー。私のことはいいからー」

准に褒められて、沙由美は相好 (そうごう)を崩した。まさしく女の顔になっている。

それからは沙由美を中心にとりとめのない話が続いたが、沙由美が陶子に気に入られようと努力していたのは明らかだった。沙由美の (おご)りで、高いシャンパンまでご馳走になった。よくよく話してみると、サバサバした気風 (きっぷ)のいい女性だった。

三人は二年前にセレブたちが集まるパーティで出会ったが、その場にイイ男がいなくてあまりにつまらないから、「ホストクラブに行こう!」と沙由美が二人を連れ出したのだという。

「あれ以来、いつも一緒に遊んでるわよね」

「ホスクラは飽きちゃったから、最近はボーイズバーばかりよ」

「そうそう、六本木にすっごくいいサパーがオープンしたんだって」

「あら、麻耶はまだ確かホストのヒカル君に夢中って噂だけど……」

「違うわよ。あれはもう終わったの。それよりも最近パーソナルトレーナーにイケメンが多いの。知ってる? 黒人のトレーナーもいるのよ」

「えー、どこのスポーツクラブ? 教えて」

三人ともまるで女子高生がはしゃぐように、次々と男の話ばかりをしていた。沙由美は独身だからわかるとしても、麻耶とさつきの二人はそんなに遊んで、ご主人は何も言わないのだろうか。

陶子は俄然、この三人の私生活に興味を持ちはじめた。いきなり取材の大本命に出会えたかもしれない。彼女の頭の中で仕事のゴングが高らかに鳴った。そのときだけ、准の存在を忘れていた。

第4話『買われる身体と時間』につづく

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第3話『豪遊する女たち』

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