ホーム 『大江戸怪談あやかし絵草子』外薗昌也 その一 妖しを呑んだ話 Page 2

さてその翌晩のこと。部屋でうつらうつらとしている関内の枕元に、誰かが座る気配がした。夢うつつに聞いていると、こんなことを言う。

「折角思いを寄せてきたものに、いたわるならばともかくも、手を負わせるとは何事か……」

関内が顔を上げると障子の前に三名の男の座する姿が見える。

式部平内しきぶへいないの使い 松岡平蔵 岡村平八 土橋久蔵と申す」

「平内は養生のため湯治に参ったが、十六日には帰る。 その時は覚悟して居よ」

関内は起き上がると三人に向かい、

「何者じゃ。平内といいおぬしらといい。何故に私に関るのだ」

暗い室内で顔もよく見えない男たちは口々に答える。

「だって平内を呑んだじゃないか」

ちぎったしるしじゃ」

「あ・・・!」

関内はあの日、水とともに妖しを呑み込んだ件を思い出した。


関内は静かに脇差の柄を握り暗い男たちを見据えた。

「生憎、衆道の趣味はない。ましてや妖魅などとどうして契ろうものか」

「妖魅とわかっていたのだろうが」

「我らに男女の別などござらぬ」

そうして見る見るうちに三人は凄まじい姿に変わりはじめる。

一人は巨大な牛の姿に。一人は蛇に。一人は鴉の姿に変じていく。

「おのれ妖怪!」

関内抜きざまに斬り付けた。

妖したちは斬られながらも素早く表に飛び出し、前日と同じ隣家との境まで行くと、隣の壁に飛び上がって見えなくなった。

「馬鹿なものに関わったものだ。未だ修養が足りぬ」

関内はいきどおり(次こそ討ち果たさん)と刀を携え夜毎待ち受けるが、平内と申すもの以下、二度と現れることはなかった。


「あの件以来、水が呑め申さぬ」と白湯をたしなむ様になった関内。

その話をする時の彼の顔にはなぜか、陰鬱で切なげな色が浮かんで見えたのだとか。

関内は縁談の話を断り続け、生涯独り身を通したという。


~神谷養勇軒「新著聞集」

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「大江戸怪談あやかし絵草子 」外薗昌也
その一 妖しを呑んだ話

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