ホーム 『日本全国津々うりゃうりゃ』宮田珠己 第二回 『名古屋(二)』 Page 4

観光旅行者にとって、その街を知るとはどういうことだろうか。

たかだか数日の滞在しかしない(今回のわたしに至っては1泊2日)旅行者にとって、その街を知るなんてことは、土台無理な相談であろう。それでも、旅行者はそれを求める。

だとすれば深く知ることはあきらめ、謙虚に、見られるだけのものを見ていくしかない。しかし、だからといってガイドブックに従い、ツアーにのっかることが最良の手段かというとそうではない。それは効率的かもしれないが、あまり有意義ではない。というのも、そこには自分自身でその街に関する知見を編集する余地が少ししか残されていないからだ。

最終的にその街を少しでも知りたいと思うならば、旅の編集作業を決して手放してはいけない。

ここでわたしは、旅を自らのものにするために役立つ、魔法のキーワードを読者にお教えしよう。このキーワードを常に心に唱えることで、その街の真実から目を逸らさせようとする(つまり、シャチホコこそが名古屋でもっとも見るべきものだと強要する)すべてのガイドブックやツアーガイドに対抗できる。シンプルだが強力なキーワードだ。それは、こうである。

《本当にそうかな?》 

さあ、みなさんご一緒に、

《本当にそうかな?》

もう一度、

《本当にそうかな?》

この魔法のキーワードのおかげで、このわたしも今回、名古屋の真実の姿に一歩近づくことができたのである。

五色園門前石枕
名古屋の真実(の一部)

《本当にそうかな?》

わたしは清潔なシートにもたれ、静かに大きく息をついた。

ああ、なんて居心地がいいんだ。

暗くなりはじめた窓の外には、大きな森が広がっていた。リニモは、高いところをゆっくり走る乗りもののなかでも、とりわけ高度が高く、まるでわたしを森の上を飛んでいる鳥のような気分にさせながら、終点の藤が丘へ向けて運んでいった。

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