ホーム 『日本全国もっと津々うりゃうりゃ』宮田珠己 第2回 長崎──2. ランタンフェスティバルは、はりぼてが重要 Page 5

どのぐらい歩いただろう。疲れがどっと出てきたので、今日はここまでにして、ひとりホテルに戻った。興奮しすぎたのかもしれない。望んでいたこととはいえ、めくるめく光の洪水にあたったような気分だ。

ホテルの部屋でひと息つき、窓から外を見下ろすと、たくさんのランタンと、その間を歩く多くの人影が見えた。

テレメンテイコ女史はまだまだ歩いてみますといっていたけど、どこに行ったんだろうな、漠然とそんなことを考えた。

その瞬間だった。

不意に、外国で、夜に到着したホテルの窓から、今と同じように街の喧騒を聞いたときのことを思い出した。

あれはどこの街だったろう。アジアのどこかだ。

少し遠い街の一画に煌々と華やかな灯りがともって、ああ、明日になったらまず一番にあそこへ行こうと思ったのだ。

ところが、翌日そのあたりに出かけてみると、華やかな街などその片鱗も見当たらず、それどころかろくに人もいなかった。いったい昨夜私を魅了したあのきらめく世界はいったいどこへいってしまったのだろうか。ふしぎだった。

何かの間違いだったのかとあきらめて、別のところを観光し、夜ホテルに戻って窓を開けると、なんということだろう、またしてもそこに華やかな街が見えるではないか。

結局、あらためて夜に出かけた結果、そこはさほど盛り上がっておらず、ただけばけばしい電飾で飾られた時計台のようなものと、いくつかの屋台があっただけだった。


私はホテルに戻り、幻想となってしまった華やかな街を遠くに眺めた。冷静に見ると、たしかにそこには屋台がいくつかあるだけで、電飾によって華やかさが増幅されているだけであることが知れた。だが、ふしぎなことに、カラクリを知ってからでも、遠めに見るその場所は魅惑的にきらめいて、私はまたふらふらと誘われてしまいそうになったのだった。

ランタンフェスティバルは幻想ではなく実際に盛り上がっていたけれど、ホテルの窓から遠めに眺めてその喧騒を耳にしていると、それはなんだか現実以上に楽しそうに感じられる。

私の知らない素晴らしいことが今まさにそこで行われているのではないか。テレメンテイコ女史は、今頃ものすごい桃源郷にたどりついているのではあるまいか。そんな気がして悔しい。

それでも私はホテルにとどまった。その悔しさが、その手の届かなさこそが、旅の味わいであることを知っていたからである。

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