ホーム 『日本全国もっと津々うりゃうりゃ』宮田珠己 第1回 長崎──1. 出島とヒマ Page 1


宮田珠己

第1回「長崎」

1. 出島とヒマ

長崎空港に降り立つと、うれしさがこみあげてきた。

旅のはじまりはいつもうれしいが、とりわけ今は、飛行機から地上に無事生還できたことがうれしい。飛行機おそるべし。

市内へ向かうバスに乗り込むと、実に安心安全な心地して、旅行気分が一気に盛り上がった。

前の座席の背をじっと見つめると、背もたれがとてもロマンチックなものに感じられる。

おお、これは……なんと魅力的な……ふつうの背もたれ。

横の窓ガラスには「中華街入口! ビジネスに観光に最適」と書かれたホテルの広告が貼ってある。素晴らしい。私には縁もゆかりも泊まる予定もないホテルだが、長崎総出で私を歓迎しようという情熱が伝わってくるではないか。

「よし、低迷する日本経済を救うぞ!」

「は? 今なんか言いましたか?」

聞いてきたのは、同行のテレメンテイコ女史である。これからはじまる一連の旅のコーディネーターであり、編集者であり、好きなものは京劇であり、嫌いなものは七福神である。

「いや、だから日本経済を救いたいなと」

「どうやって救うんです?」

「旅行ですよ、決まってるじゃないですか」

このところの円高で海外旅行に行く人が少なくないが、こういうときこそ内需拡大のため国内を旅行しよう、そうすることによって日本経済の建て直しに貢献しようと考えたのだ。

「どんな旅行?」

「どんなって、ふつうの観光旅行ですよ。今回の旅行みたいな」

「宮田さん、いつもされてるじゃないですか」

「……まあ、そうですが、まだまだ足りない気がする」

「それは、自分が旅行したいだけでしょう」

「……」

テレメンテイコ女史、性格はドライである。

日本経済は救えなかったが、走りだしたバスの車窓から、私は海を見て気を静めた。さらに山も見た。川だか細い海だかわからないものも見た。とにかく見えるものは何でも見て、長崎の感動をかみしめた。

それにしても、長崎がこれほど複雑な地形になっていたとは知らなかった。海との陸地のパズルみたいだ。空港から市内までの間、バスは幾度となくトンネルに入り、自分がどっちに向かって走っているのかも、途中でよくわからなくなってしまった。あるトンネルを出たら、いきなり長崎市街だったので、それもびっくりした。後にどういう仕掛けになっているのか、わざわざトンネルの出口を見に行ったぐらいだ。

絵を描いたので、見てほしい。

飛行機で着いた観光客が長崎市内に出てくるトンネル
飛行機で着いた観光客が長崎市内に出てくるトンネル

トンネルの上に、ふつうの民家をのせてカモフーラジュしているのがわかる。この穴から、観光旅行者が次々飛び出してくるわけである。

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