私の記憶と重なる光景
作品を通して思い起こされる私の記憶。
まぶしい光とともに思い出される昔の記憶。
子どもにとって、母親は全世界を代表する人だ。
この世界に生まれ落ちた歓びの気持ちに浸っている幼児期に見える光景は、幻想的である。
そしてその記憶と共に母がいる。
母は、自分の歓びの象徴となっている人である。
自分の記憶が確かならば、母には自分の全てを傾ける価値がある。
盲目的であると言われても私は母を信じたい、と思っている時期が確かにあった。
そして、それは今では色を失った幻影だ。
感覚が訴える、確信犯的な違和感
この作品、率直な感想を言うとアブナイです。
アブナイっていうのは、褒め言葉ですよ!
もっとはっきり言うと、狂ってます。
優しくて、美しいお母さんと道を歩いた思い出。
何の変哲もない描写から始まります。
…いや、少しだけおかしいんですよ。
道で死んでいる猫を見て微かに笑みを浮かべているのなんて、不気味じゃないですか!
でも、その微かな予兆は気のせいかのごとく、何も起こらずに話は進んでいきます。
この漫画は一体何を伝えたいんだろうか?
しばらくそう思いながら読み進めます。
ん?なんかこのお母さんやけに息子にベタベタするな?とは思いますが、本当に何も起こりません。
しかし、水面下では確実に歯車が狂っているのです。
そう、ほんの少しずつ、静一が親離れできていない様子を見せたり、いとこの家とのギャップを見せたりしながら、ゆっくりと。
まるで、道端で猫が死んでいるのを見つけた日から定められていたかのように。
読んでいる最中、言いようのない気持ち悪さというか、ムズムズ感が背中を走ります。
何か、ボタンを掛け違えたかのように少しずつズレた感じがするんです。
それが一気に爆発したとき、そうきたか!と感じました。
静子がしげるを突き落とした行動の解釈
観念的ですが、静子がしげるを突き落としたのは、家庭外の常識を否定する毒親の思考回路に通じるものがあるでしょう。
自分達の家庭の邪魔になる敵とみなし、排除した後は我が子を囲い込むだけです。
おかしい行動をした自分に子どもがついてきてくれるかは賭けですが、9割9分うまくいくと確信しています。
そうして親を愛させ、子を不健全に愛するのです。
静一はまるでコントロールされたかのように親べったりになっていますが、こんな狂った親から逃れられる術はないでしょう。
何だか、母と子の2人だけの物語を作らされた私の過去とダブってしまいました。
まだ2巻までしか読んでいませんが、続きを読みたいような読みたくないような(展開を見るのが怖いから)気持ちです(と言って、多分読む)。
全然ホラーとかではないし、絵もきれいなのですが。
何だかこの狂気が自分の心の古傷をえぐるようで身構えてしまうのです。
それだけ私のツボをついたという意味で、すごい作品だと思います。