ホーム 『モルテン食いたりないよね^q^』田辺青蛙 第8回 ヴィエンナーレへ行ってみた Page 1



第8回:ヴィエンナーレへ行ってみた


SP50の日焼け止めを塗っていても、ここ数日間で少し焼けてしまった。

町の中を散歩中に、現代美術イベントのヴィエンナーレが開催中と知り、ヴァポレットに乗って会場へと向かうことにした。

船着き場の近くには、これから仕事に向かうゴンドラが鴉の群れのように集まっていた。

朝の船着き場
朝の船着き場

近くのカフェで絞たての苺のジュースと燻製ささ身とチーズとレタスの入ったパニーニを食べてから、揺れる船着き場でキラキラと日を受けて輝く水面を見ながら船が来るのを待つ。

海風が吹き付けると、首の後ろや耳に染みてヒリヒリ痛みを感じる。どうやらその辺りは十分に日焼け止めを塗っていなかったようだ。

今さら後悔しても遅いなと思いながら、冷たい水の入ったペットボトルを肌に当てた。

観光シーズンにはまだ早いというのに、町も船も人で溢れている。


会場までは、ヴァポレットで15分くらいだったように思う。あまり下船する人はおらず、チケット売り場も閑散としていた。

世界的な美術の祭典だというのにこれは意外と思いながら、入口でチケットを買い求め、会場の地図を広げてみた。

夫と二人でどこから巡るか考えながら地図を眺める。

「日本館は見たいよね」

「そうだね、他は?」

「うーん。最初っからあんまり行く場所を決めると大変かも知れないし、歩きながら気が向いた所に入って見ることにしようよ」

「そうしますか」


入口からしばらく歩くと、最初に目に入ったのはロシア館だった。

ロシア館
ロシア館

午前中だというのに、肌を刺すようにすら感じる日差しから逃げたかったこともあって、私達はその建物に入ることにした。

中では、天井の梁にかけられたあぶみに座った男性が、ピーナッツの殻を剥いたり食べたり続けていた。

床には沢山のピーナッツの殻が散乱している。

隣の部屋は金色のコインを降らせる機械を操るスーツ姿の男性がいた。

機械を作動させると、吹き抜けになっている下の階に金色のコインが降り注ぎはじめる。

そこには透明のビニル傘を差している人がいて、コインが傘や床に落ちるチャリンという音やバタンという音が静かな館内に響いていた。

私は機械を操っている男性と、梁に座っている男性に写真で撮影していいかとカメラを指さしながら尋ねてみたのだが、彼らは表情を全く変えず、まるで機械仕掛けの人形のように同じ動作を繰り返し続けていた。

無表情な彼らの側で戸惑う表情を浮かべる私の姿を見ていたのか、入り口近くからスタッフらしき人が出てきて、彼らはアートワークの一部だから聞いても返事は出来ない、でも撮影はしてもいいよと教えてくれた。

だが、いざカメラを構えて写真を撮ろうとするとモデルの人達の眼光の鋭さもあり、物凄いプレッシャーを感じてしまいシャッターを押すことが出来なかった。


続いては、日本館に行ってみた。

日本館
日本館

そこには大きなスクリーンと横に紐でくくられた本の束があり、非常階段をくるくると駆け上がる若者たちの姿が映し出されていた。

本は洋書もあれば辞書もあり、漫画も混じっていた。

日本館の展示物
日本館の展示物

何をイメージしているのだろうと考えながら眺めていると、夫が括られた本の束の中から、夫が2012年に共著として出した一冊を見つけ出した。

その本は、夫が今まで出した本の中でもおそらく一番思い入れのある一冊で、私もその本を書く様子を数年間見ていたこともあって、ヴぇネチアで偶然出会ったことに驚きを隠せなかった。

「このアートを制作した人は、ここにある本に関わった著者が訪ねてくることを予想していたのかな?」

夫は特に何も応えず、日本館の展示物を一通り見てから外に出た。


次に向かったのは韓国館で、入り口では閉所恐怖症でないか、暗闇は平気か等の質問があり、ここの作品は人によってパニック等を引き起こす可能性があるという説明を受けた。

係の人から一通り説明を聞くと、内容を理解したかどうかを再度確認しそのことを証明する用紙にサインを行った。

韓国館の中はミラーハウスのようになっており、鏡が苦手な夫は早速少しダメージを受けているようだった。

韓国館の内部
韓国館の内部

ミラーハウスみたい
ミラーハウスみたい

天井の窓からは光が降り注ぎ、あちこちにプリズムの虹を作っている。

床や壁や柱に映る自分の姿を見ながら建物の中を進むと、小さな部屋があった。

部屋の前には係の人がおり、私達を手招きして入れてくれた。

中に入ると、扉が閉められ真っ暗で音も何も聞こえなくなった。

自分の手や指先さえも見えない、完全な闇の中でどれくらい経っただろうか。

たぶん、きっと長くはなくいたのは1分にも満たない時間だったと思う。

扉が開くと目の前には行き成り光を受けてプリズムを浮かべながら燦然と輝く、床や壁が現れ、確かにこれは人によってはくらくらして眩暈を起こしたりするかも知れないと思った。

光と闇の対比の展示に、姉妹らしい可愛らしいイタリア人の少女が声を上げて喜んでいた。


さて、次に行ったのが、何館だったのかは思い出せない……。

立て続けに色んな場所を見たのと、この辺りから現代アートを見過ぎて脳が茹った状態になってしまったせいか記憶が曖昧になっているのだ。

路上で暗黒舞踏のように全身を白く塗った男女の怪しい舞を突然見せつけられて、混乱していたせいもあるかも知れない。

1日中いるとアート酔いしてしまいそう。積み重なった椅子
1日中いるとアート酔いしてしまいそう。積み重なった椅子

どこの国のアート作品だったのか思い出せない……
どこの国のアート作品だったのか思い出せない……

積み重なる絵
積み重なる絵

煉瓦がドサー
煉瓦がドサー

一応私は美術系の大学を出たのだけれど、現代アートは正直言ってサッパリ分からない。

夫はかなりこういう展示が好きで、あれやこれやと説明してくれるのだけれど、私の脳みそはよほど出来が悪いのかそういう解説はいつも後でぼんやりとしか思い返すことが出来ない。

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