ホーム 『モルテン食いたりないよね^q^』田辺青蛙 第1回 モルテン、イタリアへ行こうかな Page 2

準備編②

夫は、イタリアでのネット環境が不安ということで仕事のやり溜めをして行くと言い日々締切地獄に追われているようだった。

私は特にこれといって変わらず、昼間は会社にいて夜になるとイタリアのガイドブックを読み「ゴッドファーザー」や「ローマの休日」等を見て、イタリア欲をより高めていた。


そして何となく、昔見た記憶があるような無いような「ヴェニスに死す」のDVDを見て、芸術の美しさやはかなさや、若さへの羨望と美しいヴェニスの風景を感じ……なんてことはなく、若き青年タージオのストーキングをするアッシェンバハの存在にドン引きし、最後にペストで死ぬシーンもなんであんな、おてもやんみたいなメイクなのだ……という感想しか出て来なかった。

それよりも彫像のように美しいタージオの母や、アッシェンバハの旅支度や迷宮のようなヴェニスの路地や、ホテルの調度品が印象に残った。

仕事でげっそりと疲れ果てた夫に、映画の感想を語るとああ、分かってないなあという顔でこちらを見、旅程表を手渡された。

「君はチケットの手配とか苦手だから、仕事の合間に旅程を組んで取っておいたよ。

ちょうど君の見た『ヴェニスに死す』と同じように、海からヴェニスに入る予定だよ。直行便のチケットが生憎取れなかったから、エミレーツでドバイ経由のチケットにした。関西国際空港から、ドバイに飛んで、そこからローマからヴェニスに移動するよ。イタリア国内の移動は飛行機とバスと電車も利用しようと思うけど、これも僕が考えて自由に組み合わせていいかな?」

「いいよ。で、行先はローマ、ヴェニス、フィレンツェだけでいいかな?」

「いや、シチリアにも僕は行きたいんだよ」

「シチリアかあ……私はミラノにも行ってみたいんだけど、あとポンペイとかえっと、バチカンとかにも行ってみたいなあ……」

「……もう少し絞ろうよ。まあ、バチカンなら入れれるけど他はちょっと無理かも」

「なら仕方ないし、お任せするよ」

「それより君には宿を取って貰っていいかな? ローマを拠点に動こうと思ってるんだけど、アパートとかウィークリーマンションとかあれば借りて欲しい。出来ればキッチン付きだと、自炊も出来るからありがたい。フィレンツェとヴェニスはホテルかな」


あれやこれやと議論を交わしながら、旅程を組み、なんとか行先はローマ、ヴェニス、フィレンツェ、タオルミーナ、パレルモに決まった。


ローマの宿はネットで短期貸しのアパートが見つかったので、ネットでやりとりしてそこに決めたのだが、相手のマリオという家主が英語がカタコトしか出来ないようで、メールもエキサイト翻訳をそのままコピーペーストしたような文法がめちゃくちゃな英文だった。

不安も多かったがキッチンとバスルームもついて、近くにスーパーや喫茶店や雑貨屋もあり、駅近くの格安物件で、他は高すぎたり遠すぎたりしたので選択肢の中からではそこくらいしかないということもあり、何とかカタコトの英語とイタリア語の単語を混ぜこぜにしたメールで交渉をすすめ、ローマではそこのアパートに滞在することに決めた。

ヴェニスは道が入り組んでいて大変迷いやすいとガイドブックに書かれていたので、目印になるような場所の、サンマルク広場近くの宿を予約することにした。

フィレンツェも迷わないようにと、町でおそらくもっともで目立つ建物、ドゥオーモの側の宿を取った。


今回の旅行は出来るだけ、荷物を減らして行こうということで、持ち物はPC、カメラ、筆記用具の他は着替えとタオルと日焼け止めと洗面用具、水着と数冊の本しか持って行かないことにした。

心配性の私はつい、荷物が多くなってしまうのだけれど、現地で揃えることが出来る物も多いだろうし、何とかなるだろう。

あれやこれやと準備を進めるうちに、とうとうイタリアへ行く日がやって来た。

私と夫は大阪の京橋駅から関空快速に乗り、関西国際空港へと向かった。

関空快速
関空快速

空港内のオブジェ、風で揺れます
空港内のオブジェ、風で揺れます

空港のラウンジには、大阪もんと書かれたのぼりがあり、出汁たこ焼きがあった。

「しばらくたこ焼きなんて食べられへんからなあ、沢山食べとこ」なんて言いながら何度もおかわりをしている若いカップルがいたのが、ほほえましかった。

心をくすぐる「大阪産(もん)」
心をくすぐる「大阪産(もん)」

イスラム法上で食べられる物を意味する、ハラルの表示があった食べ物もラウンジには置いてあり、これからトランジットの為に向かう行き先のドバイがイスラム教圏だということを思い知らされた。

旅先でイスラム教の人と出会うことは今までにあったけれど、イスラム教を信仰する国に行くのも初めてだったので、たとえそれがトランジットの数時間、空港だけとはいえ、何となく緊張してしまった。

ハラル表示のクラッカー!
ハラル表示のクラッカー!

夫は搭乗前の時間をカメラの設定や、Wifiの器具の確認に費やしているようだった。

夫はカメラの設定に余念がない
夫はカメラの設定に余念がない

日本は梅雨の最中の時期で、蒸し暑かったが、ドバイはイスラム教圏なのでおそらくお酒はないだろう。 

それどころか、ドバイを拠点にしているエミレーツ航空の飛行機内ではお酒のサービスが無いかも知れない。

飛行機が出るまでまだ1時間程あったので、ビールを一杯飲むことにきめた。

しばらく飲めないかもしれないと思うと、ビールがいつもより美味しく感じたのが不思議だった。

今思えば、あの時に飲んだサッポロの缶ビールがここ数年で飲んだビールの中で一番美味だったかも知れない。

前のページ

次のページ

「モルテン食いたりないよね^q^」田辺青蛙
第1回 モルテン、イタリアへ行こうかな

目次  1   2    付録1   付録2