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第18回:骸骨寺とバチカン帝国


地下鉄A線バルベリーニ駅を下りてから、歩いて数分の場所にあるという「骸骨寺」を目指して歩いていたのだが、迷ってしまった。

塩野七生の『イタリアからの手紙』によると、サンタ・マリア・インマコラータ・コンチェツィオーネ教会(通称、骸骨寺)はひっそりとした教会で、地元の人でもあまり知られていないというような場所ということだったが、本書が出版されてから40年も経って、随分状況は変わったのだろう。

骸骨寺というだけで、声をかけた人が「ああ、あそこか」という感じで親切に目的地までの行き方を教えてくれた。

「この辺りで観光客を見かけたら、大抵あそこに行きたがっている人だよ。石だらけの礼拝堂の中に修道士400人分の骨で作られた、シャンデリアや机があるよ。ハロウィンの時期なんかは凄く込み合っているね」

そう説明されて案内された教会は、古めかしい蔦に覆われた場所なんてことはなく、博物館や図書館を思わせる、随分と小ざっぱりした外観をしていた。

骸骨寺の外観
骸骨寺の外観

石造りの階段を駆け上がり中に入ると、茶色の修道衣に腰に麻縄、素足にサンダルを履いた、カプチン会の修道士が受付に案内してくれた。

昔は寄付金だけで賄っていたらしいのだが、現在は入場料が大人6ユーロ、子供とシニア4ユーロとなっている。

料金を支払うと、神聖な場所なので肌をむやみに露出させないこと、帽子を被らないこと、そして、決して写真は撮ってはいけないということを説明されてから中に通された。

内部は小さな博物館になっており、十字架や聖書、杖や写真が展示されていた。

展示品を見終えると、地下だからだろうか、それとも日が差さない薄暗さと石の床や壁のせいだろうか、夏だというのに肌寒さを味わいながら、聖人達の骸骨がひしめく空間へと入っていった。


かなり薄暗いので、目が慣れるまでに少々時間がかかった。

オレンジ色のほのかな明かりに照らされた、壁一面を埋め尽くす頭蓋骨。ひそひそと様々な言語で囁き合う観光客の声。

ミイラ化した修道士も無数の骨も、ここではあまり不気味には感じられなかった。

これを作った人達の意図は分からないのだけれど、見ているうちに、骨が積み木やブロックやパズルのパーツのようにしか感じられなくなってしまった、からだろうか。

骨で作られた模様や、頭蓋骨の山を見ていると、同じ太さの骨や大きさの頭蓋骨でそろえられていることや、バランスを合わせて作られているのが分かる。

見立てが、怖さを薄れさせてしまっているのだろう。

何だか、不謹慎なものをうっかり見てしまったような気持ちになり、これが宗教観の違いなのだろうかと考えながら外に出た。

急に明るい所に出たせいもあり、目がチカチカした。

骨もミイラも死臭がせず、何だか映画のセットのようにも感じてしまった。

観光客は皆、骨で作られたオブジェのポストカードやノート、マウスパッド等のグッズを記念品として買い求めている。

骨となって展示されている聖人達は今の情景を見て、どう思うのだろう。

まあ、墓が観光客によって踏まれることで罪が消えるというような話をフィレンツェで聞いたので、これはこれということで、自分の骨がシャンデリアの一部や死神の鎌のオブジェの一部にされたからと言って怒ったりはしないのだろう。

自分だったら嫌っていた人の骨と同じオブジェのパーツにされるのは嫌だなあと思ったのだが、ここに飾られている骨は皆望んで、ここに飾られているということだった。


ふと、考えてみたのだが、イタリアで祟りや呪いの概念はあるのだろうか? アメリカに旅行中はどこの書店にも幽霊話の本はあったのだが、イタリアはどうなのだろう?

日本の怪談のような話はあるのだろうか? と気になったので、帰り道に書店によって「ローカル・ゴースト・ストーリーズ」の本はありますか? と聞いてみたが、英語が通じず結局、本を手に入れることは出来なかった。

骸骨寺を後にし、次はバチカンへと向かった。

時間帯によっては、物凄い長蛇の列に並ばなくては中に入れないと聞いていたのだけれど、5分程で城壁の中に入ることが出来た。

バチカンの外壁。時間帯によってはなかなか中に入れないらしい
バチカンの外壁。時間帯によってはなかなか中に入れないらしい

丁度昼食の時間帯だったので、中の食堂に入るとそこは長蛇の人の列が出来ていた。

だけれども、毎日こんな具合なのか、慣れた調子で硝子越しにピザの種類やらホットドッグにケチャップは付けるのかどうか等の注文を聞き、人を次々とスタッフが捌いていった。

キリスト教の総本山ということで、何となくベジタリアン向けの料理しかないかと思いきやそんなことはなく、肉料理もお酒もあった。

実際ビールは飛ぶように売れており、へべれけになっている人や、赤ら顔で、椅子に座る者、机に突っ伏して寝ている人もいた。

バチカンのレストランにてビールとピザ
バチカンのレストランにてビールとピザ

レストランには自由に使える調味料置き場がありました
レストランには自由に使える調味料置き場がありました

だからと言って荒んだ雰囲気はなく、観光疲れで酔ってしまったのね、仕方がないなあというような大らかな空気が辺りを包んでいる。

腹ごしらえを済まし、私と夫はカメラを首から下げた観光客丸出しといった風体でバチカンの内部へと足を踏み入れて行った。

地下鉄の入り口駅名は文豪マンゾーニにちなんで付けられていた

地下鉄の入り口駅名は文豪マンゾーニにちなんで付けられていた
地下鉄の入り口駅名は文豪マンゾーニにちなんで付けられていた

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