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第15回:さらばフィレンツェ、そしてローマへの道


徒歩でスーツケースをガラガラと引きながら駅についた。

電車の予約番号を印刷した紙を持ってカウンターに向かうと、ジョー・ペシ似のおじさんが何も言わず顎をクイっと上げた後に、セルフサービスの文字が掲げてある券売機を指さした。

そこで発券しろという意味なのだろう。

券売機はタッチパネルの反応が何故だか異様に悪かったが、予約番号を入力すると乗車チケットが取り出し口からでてきた。

駅に止まっている電車同士の間隔は狭く、駅のホームも日本と比べると低い。

電光掲示板の情報によると、どうやら電車の到着が1時間ほど遅れているらしい。

観光客が多い土地だからか、皆がのんびりとしたムードで駅のベンチで休んだり、鳩を追いかけたりしながら時間を潰しているようだった。

券売機
券売機

駅のホーム
駅のホーム

電車を待つ人々
電車を待つ人々

さて、駅でどうやって時間を潰そうか
さて、駅でどうやって時間を潰そうか

スーツケースの上に座り、本を読んだりするうちにウトウトしはじめ、はっと気が付くと2時間が経っていた。どうやら予定時刻より更に電車は遅れているらしい。

「今日中にローマに着けばいいね」

「着いても夜中だったら嫌だなあ。知らない町だと迷いそう」

「Googleマップだってあるし、そう簡単には迷わないよ。ローマはフィレンツェより都会だろうし、きっとWi-fi環境とかも整っていると思うよ」

「そうだといいなあ」

夫とそんな会話を交わしながら、ぼんやりしていると、やっと電車が到着したというアナウンスが耳に届いた。

車内は日本の新幹線のグリーン車のようで、椅子は広々としていて掃除も行き届いていた。

特に出発の合図もアナウンスも無く、電車は走り出した。

車窓の外の風景は、絵本の挿絵に出て来そうな赤い屋根の家が立ち並んでいるところが見えたかと思えば、ブドウ畑や花畑、金網のフェンスで囲まれた工場地帯と目まぐるしく変わっていく。

走行時速も250㎞近くに達しているようだった。

時速表示
時速表示

Wifiが通じる車内
Wifiが通じる車内

車窓の風景1
車窓の風景1

車窓の風景2
車窓の風景2

やっと着いた
やっと着いた


車窓の風景を楽しんでいる内に、あっという間にローマに着いた。

電車から重たい荷物を下ろし、目当てのアパートに向かうことにした。

アパートの場所は駅から歩いて15分ほど。

タクシーを使う程の距離でもなく、周りを把握するために歩いて行くことにした。

電話でアパートの管理人に駅に着いたこと伝え、歩いて行きますというと「ええ!?」と驚かれ、そしてプツッと通話が切れた。

その後、電話をかけなおそうと思ったのだが、充電が切れたか電波状態の悪いところにいるのかなと思い、止めた。


駅からアパートまでは道に迷うことは無かったのだけれど、やたら遠く感じた。

理由はローマの町中が思ったより、荒廃していたからだ。

数日間の滞在で、町を語ることが出来ないのは十分承知しているし、たまたま私達が滞在予定のアパートのある地区の治安が悪かったのか、窓が割れているアパートやパーカーのフードを被った青年がポケットに手を入れたまま、数人こちらをじっと見ていたので何だかちょっと歩いていて緊張してしまった。

でも途中で通りかかった公園では、複数の子供たちが楽しそうに遊んでいたし、老人がベンチで日向ぼっこをしたりしていた。

大阪でも見知っていれば何とも感じないけれど、知らないで歩くと治安が悪そうに見えたり、感じたりする場所があるので、まあ、その手のことと同じなのかも知れない。


実際何事もなく無事アパートに着いた。

あの青年たちも、私達が道に迷っているかと心配して声をかけようと思っていただけかも知れない。

というか、そう思いたい。

門の前には若い夫婦が立って待っていた。

「タクシーでくれば良かったのに。この辺り坂が多いし荷物大変だったでしょう」

「坂はそれほど気になりませんでしたよ」

「そう、なら良かった。ここはパパのアパートなの。これは鍵よ。この辺りはスリが多いから気を付けてね。日本は安全だから鍵をかける習慣がないって聞いたけれど、ここじゃかけてね」

「鍵は日本でもかけますよ」

発音が悪かったのか、私のジョークと思ったのか引きつった笑みを浮かべて二人は去って行った。

治安が良くないと言っていたが、鍵はかなりチープな作りではんだを流し込めば簡単にコピー出来そうな代物だった。

「ちょっとビックリするくらいシンプルな作りの鍵だね。蝋に型押しして、簡単に複製出来そう」

「なんで君は犯罪者視点で直ぐにものを考えるの?」

「いや、別にそういうわけじゃないんだけれど。『鬼平犯科帳』とか読んで、鍵の複製とか考えたことってない?」

「ないよ」


アパートの扉を開けるとエレベーター故障の張り紙がまず目に入った。

部屋があるのは4階だった。

上の方からジミ・ヘンドリックスの曲が聞こえてくる。

荷物を何度かに分けて階段を上り下りすると、背中のTシャツがべったりと張り付いてしまう程、汗をかいてしまった。

途中の階からはお香なのか、頭の芯が痺れるようなハンパじゃない甘ったるい匂いが漂っていたり、廊下でヒッピー風の恰好をした若者が寝そべっていた。

ゲート
ゲート

エレベーター
エレベーター

張り紙
張り紙


部屋に入ると布団は埃っぽく、手を載せただけでダニでも大量にいるのか、強い痒みを感じた。

立て付けの悪いドア
立て付けの悪いドア

家具
家具

バスルーム
バスルーム

私と夫は窓を開け、近所の雑貨屋で購入した毛布と、日本から持ってきたタオルにくるまってその日は眠った。

ローマはなかなか油断ならない土地のようだった。


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