ホーム 『モルテン食いたりないよね^q^』田辺青蛙 第10回 銀仮面のサンタルチア Page 1



第10回:銀仮面のサンタルチア


当然例外はあるけれど、日本語のメニューがあり、日本語で話しかけてくる客引きのいる店の料理は、美味しくなくって値段も高い所が多い。

今朝行ったお店はその代表格で、魚は水気が無くてパサパサ、サラダはしおしおで、ドレッシングは酸っぱすぎたし、パンは冷えていてカチカチ。それでいて、値段は聞いていたのと17ユーロも違い、文句を言うと水とサービス料だと言う。


今日はヴェネチア滞在最終日ということもあり無用なトラブルを抱えたくなかったこともあって、黙って言われた金額を最終的に支払った。

日本大好き! と言って新鮮な魚介類の料理がありますと、見本にみせてくれた写真の料理が美味しそうだったので、ほいほいついて行ってしまったのが原因なのだが、後悔しても、もう遅い。


荷造りを済まし、ガラガラと石畳の街を進みながらヴァポレット(水上バス)の乗り場まで行き、夫と二人で船を待った。

行きの行程は全て船だったが、帰りは違うルートを通ろうということで、ヴェネチアからフィレンツェへは鉄道を利用することにした。

10分程待つと船が現れたので乗り込み、揺れでスーツケースが移動しないようにストッパーをかけ、足でも挟み込んで固定した。

船はゆっくりと出発し、街中の水路を縫うように進む。

耳に届く、ゴンドリーエのサンタルチアの歌声や、威勢の良いイタリア語のお喋り。

幸いなことに、この日は曇り空ということもあって気温もそう高くなく、いつものように皮膚に痛みを感じる程の強い日差しもなく、おかげで快適な船上の時間を過ごすことが出来た。

水路で駅へと向かう
水路で駅へと向かう

行き交う船ともお別れ
行き交う船ともお別れ

ぼんやりと船の上で揺られること30~40分。

やっと駅についた。

船から降りると、しばらく地面が揺れているように感じたので、その場でじっとしていたところ、駅のすぐ横にある人気ひとけ のない寺院が目に入った。

入り口の所に大きな、女性が黄金の皿に二つの目を載せた絵が掲げてあった。

電車の時間にはまだ余裕があったこともあり、私はその寺院の中に入ってみることにした。

駅の横にあった寺院
駅の横にあった寺院

寺院の入り口
寺院の入り口

手には二つの目が乗ったお皿
手には二つの目が乗ったお皿

中は薄暗く、とても静かで、白い杖を持った女性が一人祈っているだけで、他には誰も見当たらなかった。 

目に関係のある聖人なのだろうかと思い、入り口にあったイタリア語と英語のパンフレットを手に取り、奥へと進んだ。

百合の生花が活けてあり、甘い花の匂いがした。

寺院の奥に進むと、硝子ケースの中に横たわった小柄な少女の姿が目に入った。

何故か、少女の顔の部分だけが金属製の仮面で覆われている。

少し暗闇に目が慣れて来たので、先ほど手に取ったパンフレットを開き、文字を追った。

すると、この少女はあのナポリ民謡で有名なサンタルチアということが判明した。

シラクサの光の処女、サンタルチアは、ナポリでなく、何故かヴェネチアにいたのだ。

仮面をしているのは、少女は異教徒から両眼を抉り取られるという受難を体験したために、あまりにもその姿が痛ましいと感じた信者が寄付を集め銀で仮面を作成し、被せたということだった。

キリスト教のことは詳しくないのだけれど、聖サンタルチアは確か盛大な規模のお祭りもある程のメジャーな聖人だ。

そんな超有名な聖人の遺体が祀られているというのだから、もっと多くの信者がここに訪れていてもおかしくないのではと感じたのだが、寺院の中は私と夫と静かに祈り続けている女性の3人っきりだった。

駅のすぐ傍の寺院にも関わらず、参じる人が少ないのは何故なのか、シラクサのサンタルチアなのに、どうしてこのヴェネチアの地に祀られているのか、それらの理由はパンフレットを何度読んでも分からなかった。

そういえば、今日利用する予定の駅の名前がサンタルチア駅だったが、それはただ単にゴンドリーエの歌う民謡から名付けたと勝手に思い込んでいたのだが、駅のすぐ傍にこの寺院があったからと気が付いた。

銀仮面の少女は、150cmあるかないかの小柄な姿で、受難のことを思うと胸が痛んだ。

特にこれといった信仰を持たない私は、とてもこのような出来事に耐えられはしないだろう。

聖サンタルチアの絵葉書
聖サンタルチアの絵葉書


寺院を見終えると、電車の時間が迫っていることを知り、切符の発行を券売機で行い、ホームで電車を待った。

電車の構内には多くの人たちが、私たちと同じようにスーツケースをガラガラと音を響かせながら、引いていた。

駅の構内
駅の構内

ただ、切符に印字された時刻になっても電光掲示板に私たちが乗る予定の列車の告知は見当たらず、近くの駅員さんに聞いても英語が通じなかったり、分からないから他で聞いてくれという返事がかえってくるばかりだった。

電光掲示板、結構でたらめ
電光掲示板、結構でたらめ

よく見てみると、周りには同じように切符と電光掲示板の表示を交互に見比べている人が多くいた。

海外だと、時刻通りに電車が来ることはないので、おそらく遅れているのだろうとどっしりと構えることにした。

それから40分ほどすると、電光掲示板の表示がパッと切り替わりお目当ての電車が私たちの待っているホームとは反対側に待っているということを知った。

大慌てで移動し、電車に乗り込んだのだけれど、急ぐ必要はなかったようで、まだ客席には誰もいなかった。

この間を何往復もするハメに
この間を何往復もするハメに

らくがきだらけ
らくがきだらけ

電車内
電車内

荷物を下し、汗を拭き、まだ見ぬ花の都フィレンツェのことを思いながら、椅子に腰を下ろし、電車が動き出すのを待った。

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