ホーム 『モルテンおいしいです^q^』田辺青蛙 第2回 モルテン、羽ばたきます Page 2

夫の適当な返しに納得しつつ、私は個人的にシカゴの情報本として役に立つと思って買った、シカゴ在住の漫画家、ヤマザキマリ氏の『SWEET HOME CHICAGO』を読み始めた。

夫は『地球の歩き方』を買って読んでいるが、こういうのは現地に住んでいる人の体験記や情報の方が役に立つと思っての選択だった。

この本を読んで、大まかに得た私のシカゴに関する情報は、まずシカゴには『牛角』があるということと、冬はとんでもなく寒いということだった。

「ねえ、シカゴって冬はマイナス30度くらいになるんだって。私たちが行くのは9月だけど、かなり肌寒いんじゃないかしら」

「ええ、そうなのかなあ。ネットで現地気温を見ているかぎりじゃ、そんなに寒くなさそうだけど。冬と秋じゃ、全然違うんじゃない?」

とりあえず、急に寒くなることも想定して、私と夫はコートと重ね着できる服をスーツケースにたっぷり入れて旅立つことにした。

「今回は旅行後に、アメリカに3ヶ月ほど住む予定だけど、日本から持って行った方がいい物って何だろう?

仕事の資料用に本は多めに持っていくとして……現地調達できる物はなるべく置いといて……ねえ、あなた何かこれだけは持っていくって物はある?」

私が訪ねた瞬間、夫は間髪入れず「おひつ」と答えた。

「これは絶対必要だね。前回アメリカに行った時にカリフォルニア米があることは突き止めているし、実を言うと最近鍋で米を炊く練習もしていたんだよ。

でさ、割と高い炊飯器で炊いた米よりも上手く炊けるようになったんだけど、もうひとつ何か米の美味さをグレードアップさせたいと思って、通販で職人さんが作った曲げ輪おひつを買ったんだ。

そうしたらね、米を入れただけで味が全然違うの。

冷やごはんの持ちもいいし、米を口に入れた瞬間うわっ! てなるほど差が歴然なんだよね。

君も最近米の美味さが変わったって気が付いて無かった?」

「気が付いていたし、台所の「おひつ」は買った時から目についていたから知ってるよ。

でも嵩張かさばるし、持ち運びも面倒だろうし、アメリカに持っていくのは諦めない?

ほら、今回はふたりそろって本だけでも凄い量だし」

「いや、持っていく。味が違うから。「おひつ」っていっても三合用だから、そんなに大きくないし、他の物を減らしてでも持っていくよ」


ちなみに我が家では夫が食事を作る機会の方が多い。

理由は、いろいろとあるのだが、夫が割と台所にいるのが好きなタイプで凝り性だからだ。


そんなわけで、コートとわずかな着替えと「おひつ」と、本を抱えて私と夫は電車で夜の成田へと向かいシカゴへと飛び立った。

おひつ
おひつ


飛行機の中で、夫に連載のタイトルが『モルテンおいしいです^q^』に決まったことを伝えると、ちょっと驚きと狼狽うろたえを交えた表情を浮かべていた。

夫の表情の意味を考えながら、私はアイマスクをして機内で眠りについた。

目が覚める頃にはシカゴのオヘア空港に着いていることだろう。

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