ホーム 『モルテンおいしいです^q^』田辺青蛙 第1回 まずはタイトルを決めなくちゃ Page 1


田辺青蛙

『モルテンおいしいです^q^』

第1回:まずはタイトルを決めなくちゃ

ちょっと個人的な事情で、来月からアメリカに行くんです。

最初にシカゴにいって行って、ワールドコンっていうSFイベントに参加して、その後大陸横断鉄道に50時間ほど揺られて、サンフランシスコに入って、そこで3ヶ月程暮らす予定なんですよ。


あの、田辺さん。その旅程や日常について、書いてみませんか?


はい! 喜んで!


こんな感じで、うら若く美しい女性編集者に誘われて、この連載企画が決まった。


お世辞でなく、どこの出版社も、女性編集者の美女率がやたら高いのは何故だろう。

例えばK社の編集者は、大女優のような貫禄のある宝塚系の美女で、P社の担当編集者は、とあるグラビアモデルにそっくりである。

ほかにも学生時代にモデルを経験していたことがある方や、元ミスコン嬢などと、華やかな経歴を持つ人が多い。

私が男性作家だったら、たちまち恋に落ちてしまいそうな人達ばかりなのだが、不思議なことに、あまり男性作家と女性編集者のロマンスは聞いたことがない。

まあ、私の担当編集者の中には男性もいるが、ボツにされやしないかとか、訂正の赤字がどれくらい書き込まれた状態で原稿が帰って来るだろうかとか、ロマンスとは別方向でしかドキドキしたことがないので、その辺りのことが原因かもしれない。


さて、家に帰り「ヒャッハー!新連載だぜ!!」と奇声を発した後、私はさっそく机に向かってこの連載のタイトル案をメモ用紙に書きなぐった。


『けろり途中下車』

『蛙道中記』

『ぼんやり蛙旅行』

『けろけろ旅日記』

『ゆるゆる紀行文』


ほかにもいろいろと考えていたのだが、仕事から帰って来た夫が、私のメモ書きを見るなり、センスが無いと言い放ち、横に書いた一文がこうである。


『モルテンおいしいです^q^』


私は思わず夫の描いたタイトル案の横に「?」を書き足した。

「何これ? どういう意味なの? 」

夫は私に何が不思議なのという顔をして、説明を始めた。

えっ、モルテンって知らない?『ニルスのふしぎな旅』に出てくる主人公の相棒のガチョウだよ。

昔NHKアニメでもやっていたけれど、見なかったの?

モルテンは空を飛べるガチョウで、ニルスを背に乗せてガンの群れと共に旅をするんだよ。

でね、このタイトルの意味は『ニルスのふしぎな旅』の登場人物である、ニルスが空腹の誘惑に負けてモルテンを食べてしまい、この先の交通手段であるモルテンを失ったことに気が付き愕然とするが、今は食べている現状に対して満足しているゆえに放った一言って設定で、君の考えたタイトルよりも、ずっと素敵だと思うけど……。ほら、物凄く行き当たりばったり感が出ているだろ

「へえー、そこまで言うんだ。
ならこれから、私のタイトル案とあなたのタイトル案の両方を書いて、編集担当者さんに送るね。きっとあなたのタイトルは一笑に伏されて不採用に決まっているだろうけど」

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