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だが今回の目的は分水路だ。

ガイドはひと通り滝を見せたら、後ろをついて来てくださいといって、対岸の森のほうへ車を走らせた。

やがてなんでもない土手のようなところの手前で車を停めると、そのちょっとした土手を歩いて登った。

土手のむこうに、今はほとんど水の流れていない川があった。

一見、自然のようだが、これが分水路である。わざと自然に見えるようにデザインされているのだ。

「業界でも非常に評価が高く、グッドデザイン賞をいただいたんです」

とガイドは言った。

わかる。こんな人工の川は見たことがない。

横の歩道を歩いていくと、すぐに終わりが見えてきた。ほんの400メートルほどの分水路なのであった。

なぜこれが見たかったかというと、人間が地形に手を加えて川を作ったというそのスペクタクルな感じが気になったからである。

曽木の滝を擁する川内川(せんだいがわ)は、ちょうど滝のところで川幅が狭くなっていて、そのために大雨が降ると曽木の滝手前でたびたび氾濫を繰り返してきた。そこで平成18年に氾濫したのを機に、氾濫原となる河原から、滝を迂回するようにして山を穿ち、分水路を造ったのだ。完成は平成23年。その後の5年間に2度、ここを水が流れたそうである。

曽木の滝分水路
曽木の滝分水路

人工の川という意味では、いわゆる運河と同じことで、そう考えると珍しくもないが、ここは川のはじまりが平らなグランドみたいな土地であり、それが突然峡谷のようになっているところに味わいがある。

さらに何度も言うが、直線的な人工水路でなく、まるで本物の峡谷のように造られているところがポイントだ。あの平地から幌馬車がやってきて、峡谷の中で狙撃されたりしそうな感じがする。

曽木の滝と並んで十分な観光価値があると思うけれども、われわれ以外誰も見に来ている人はいなかった。通常は関係者以外立入禁止の建前らしい。もったいない。ときどき幌馬車走らせて襲撃してみてはどうか。まあ幌馬車じゃなくて、大名行列でもタンクローリーでもいいが、とにかくここを通れば何かが待ち伏せしてそうな、そんな予感を大事にしたいものだ。

ちなみに今もちょろちょろ流れているのは、これは湧き水である。メダカが棲んでいるというので地元の子どもがこっそり捕りにきたりもするそうである。

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第20回 鹿児島2

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