ホーム 『日本全国津々うりゃうりゃ〈休暇強奪編〉』宮田珠己 第16回 四国横断2 Page 4

四国遍路経験者のわりにちゃんと覚えていない私は、覚えているギャーテーギャーテーハーラーギャーテーのところだけ大きな声を出して、知ってるふうをアピールした。

「ここで話した願い事は誰にも聞こえません。他言無用です」

おばさんがそう言い、たしかに外に聞こえることは絶対にないだろうな、弘法大師に聞き届けてもらえるかも、と神妙な気持ちになっていると、不意に、「穴禅定参拝記念にもなる弘法大師の御手形、この手袋をして体の悪いところをなでればたちどころに良くなる、所願成就、交通安全にも効きめがある」とかなんだか唐突な宣伝が始まり、映画『トゥルーマン・ショー』かと思ったのである。

弘法大師の御手形は納経所で1000円で売っているそうだ。全然信じていないが、記念に買って帰ることにする。

帰りもほぼ同じ道を戻った。1か所だけ這いつくばって進む場所が行きと違うが、ここは胎内くぐりとされ、懺悔しながら通るようにと言われる。清廉潔白公明正大に生きてきた私は、懺悔すべきことはとくになかった。

そんなことより四つん這いで腰が痛い。

そうして帰りはわりと早く進んで穴禅定を突破した。かかった時間は往復で45分であった。たった3人だったのと、通り抜けるのに時間がかかる太った人がいなかったせいか、言われていたのよりだいぶ早かった。ろうそくもたっぷり余っている。

「腰、大丈夫でしたか」

いつもは冷酷なテレメンテイコ女史が気遣ってくれた。

「ええ、なんとか」

女史の顔を見ると満足そうな表情であった。

「いやあ、面白かったです。目先のことだけに集中することが、他のいろんなイヤなこととか悩みとかを忘れさせて、それがストレス解消になるんでしょうね」

相当なストレスが溜まっていたらしい。

「私も今日から生まれ変わります」

と言うと、

「前も磐船(いわふね)神社でそんなこと言ってませんでしたか。いったい何回生まれ変われば気が済むんですか」

とつっこまれた。

「何回生まれ変わっても、いいのが当たらないんですよ」

返事はなかった。

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「日本全国津々うりゃうりゃ〈休暇強奪編〉」宮田珠己
第16回 四国横断2

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