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第16回「四国横断2」


2.おそるべき穴(つづき)


慈眼寺(じげんじ)は徳島県の山中、上勝町(かみかつちょう)にある。修行の場というだけあって、人家も少ない寂しい場所だ。

境内で穴禅定(あなぜんじょう)を申し込むと、ろうそくと白衣が渡された。

ろうそくはもちろん明かりとして使う。洞内に明かりは全くない。

白衣は何度も使ってボロボロになっていた。ろうそくの火で穴が開いたりするのだそうだ。自分に引火してどうする。

この時点で腰の痛みは、痛み止めで少しましになっていた。これならなんとかいけるのではないかと思う一方で、そうすると狭い洞窟に1時間もいるという嫌さと地震が起きないかという不安が膨らんで、全体としての気乗りしない度はあまり変わらない。

これを通れない者は入れない
これを通れない者は入れない

「白い線に従って登っていってください。上で案内人が待ってますから」

と納経所で言われ、その通りに山道を登った。

境内のすぐ裏にあるのかと思っていたら結構登る。ヨタヨタ歩いて本堂に到着すると、脇の岩壁のくぼみに板を立てて小屋のようにしてある場所があり、そこで案内人とおぼしいおばさんがわれわれを待っていた。今回の体験者はテレメンテイコ女史と私だけのようだ。

穴禅定の入口へはさらに登る。鉄の扉を通り、階段を昇ると岩棚のようなところに出て、案内人から穴禅定の説明を受けつつ、岩のくぼみにある不動明王に手を合わせた。

不動明王が安置されている岩棚は、かつて弘法大師が修行した場所だそうで、その修行中に洞窟から龍が現れ大師に襲いかかったと伝えられている。大師は法力(ほうりき)をもってこれを調伏(ちょうぶく)、洞窟内に閉じ込めたという話だ。その龍が巣食っていた洞窟が、まさにこれから入る穴禅定の穴というわけである。

訊いてみると、案内人のおばさんはこの仕事を10年やっているとのこと。多い日は1日に5~6組案内する日もあり、ひまなときはまったく人が来ないこともあると言った。案内人はもうひとりいてふたりで交代で担当しているそうだ。

そんなことを聞いてもしょうがないのだが、なんとなくこのおばさんの人生を想像してみたかったのと、少しでも仲良くなっておいたほうが後々ピンチになったときに助けてもらえそうだったから、フレンドリーさを演出したのだ。けれどもあまり根掘り葉掘り訊く話でもないので、そのへんにしておく。

腰は、だいぶ薬が効いてきて、しゃがんだり体を前に倒すぐらいなら問題なくできるようになっていた。しかし、ひねりだけはきつい。ひねった瞬間にまちがいなく世界の終わりがやってくるだろうことは感触でわかった。

「テレメンテイコさん、これ、もし途中でもうダメだってなったらエスケープルートあるでしょうかね」

「あるわけないでしょう」

「途中にトイレとかあるかな」

「ないと思います」

んんん、これから1時間、泣いても笑っても穴から出られないのか。

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第16回 四国横断2

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