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第17回「宮崎1・2」


1.テレメンテイコ女史の災難(つづき)


南国宮崎とはいえ、12月の山里の夜はしんしんと寒かった。

神楽宿(かぐらやど)になっている農家は、見物の人たちのために縁側を開け放っているので、神楽を舞う男たちも寒い部屋で舞うことになって、見るからに薄い白装束が気の毒に思えた。

われわれが到着したときに舞われていたのは、「岩くぐり」という神楽で、これは剣の舞ということだった。剣を手にした4人の男たちが、ゆっさゆっさと舞い、また、ゆるーりゆるーりと舞い、ふわっと移動したかと思うと片足立ちでぴょンぴょン跳ねたりした。

舞い手は、歳のいった男性と若者が混じっていた。ときどき踊りを間違えては苦笑いしたり、小声でああだこうだ年配者が指示を出しながら舞っているのが、微笑ましい。

そのぶんなんだか本格的でないものを見せられている気持ちになったのは仕方のないことだが、この舞いを仕切っている一番の年長者がひとりで舞う段になると、舞い手の無表情が見る側をだんだんと圧倒し、本格的なものを見ている気になってきた。舞いは同じ型の動きを繰り返しながら続き、変化を期待していると飽きるものの、その単調さのなかにじわじわと何かが宿っているような気配がし始めたのはさすがであった。

私はかつてミャンマーで夜通し霊媒師が踊るのを見たことがあるが、そのときの光景に似たものを感じた。霊媒師はやがてトランス状態に陥り、最後は見物客にご神託を授けるのだが、この神楽もこのまま舞い続けていればトランスするのかもしれない。しかし、そこまでいく前に「岩くぐり」は終了。

続いて「袖花(そではな)」に移ったが、ここでも「おもて様」は登場せず、素顔の男たちが舞った。うちの近所にいてもおかしくない普通の顔立ちの男たちを見ていると、つい、この男性は普段何の仕事をしているのだろうとか、舞いは下手だけど顔は利発そうなあの男性は、実生活では女性に人気があるんじゃないかとか、そっちの真面目そうな青年とこっちの不良っぽいワルガキ風の若い衆は、普段仲良くやれてるのだろうかとか、俗なことばかり考えてしまう。

そして地元の男たちがこうして神楽を練習して披露しているその責任感と結束について思い、偉いとか立派だとか練習大変そうとか、しまいには自分が町内会の理事をやらされたこととか思い出したりして、なんかもう、ああああ、っと頭を振り払いたくなった。せっかく神楽を見に来たのに全然集中できない。早く「おもて様」を被って欲しい。

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