ホーム 『日本全国津々うりゃうりゃ〈仕事逃亡編〉』宮田珠己 第16回 宮崎1 Page 2

ところが、午後のバスに乗って高千穂のバスセンターで降り、ホテルへたどり着いてみると、テレメンテイコ女史が凹んでいた。西高東低冬型の気圧配置みたいな、いつものしんしんと冷ややかな対応を覚悟していたのに、しょげているのは女史のほうであった。

「どうしたんですか? 元気ないじゃないですか」

「私、お財布をすられたかもしれません」

えええっ!

聞けば、昨夜、会社から羽田のホテルに向かう電車内で財布がないことに気づいたらしい。あわててカード会社に連絡してクレジットカードを停め、それでも取材費用が必要なので、コンビニで現金を下ろしたところが、そのときに使ったカードまで(銀行のカードは別に持っていた)手元になくなって狼狽したという。残業続きで疲労困憊し、注意力がゼロに落ちていたそうだ。

コンビニで使ったカードは結局見つかって、ひとまずは胸をなでおろしたものの、財布のほうは戻ってこない。片付かない気持ちで、熊本空港に飛んできたとのこと。

テレメンテイコ女史の財布がすられた瞬間イメージ図
テレメンテイコ女史の財布がすられた瞬間イメージ図

さらに付け足すならば、その熊本空港へのチケットも、間違えて宮崎空港行きを予約していることに前日気づいて、あわてて買いなおしたのだそうだ。

そうして幾多のミスと困難に翻弄され、へとへとになってバスに乗ったら、そこにいるはずの宮田が乗ってなかった。さしものテレメンテイコ女史も、もはや怒る気にもなれず、むしろ自分の内なる問題として、これをとらえたのであった。

自分は疲れすぎている。

たしかに、そこまで災難が続くとなれば、テレメンテイコ女史の運気は衰退期に入っていると言わざるを得ない。傍目には、一見私が災難に拍車をかけたかのように見えるが、私と今朝合流できなかったのも、私がバスを間違えたとかそういうレベルの話ではなく、女史の運気的な問題であろう。

私と合流できなかったことで、日中の予定がキャンセルになり、女史はホテルに着いてからゆっくり休んだそうで、私はいいことをしたのである。疲れている彼女にとって、今は少しでも体を休めることが何より大事だからだ。

そう考えると、私はテレメンテイコ女史を守るために熊本でレンタカードライブをしていたと言っても言い過ぎにはならないだろう。無意識のうちに女史のために行動していたのだ。私の生まれながらに持つ人間愛の発露がそこにはあった。

前のページ

次のページ

「日本全国津々うりゃうりゃ〈仕事逃亡編〉」宮田珠己
第16回 宮崎1

目次  1   2  3   4   5