ホーム 『ラヴァーズ・ハイ』カニリカ 第2話『美しすぎる横顔』 Page 5

「今、世の中はこんなことになっていたの!?」

後から後から溢れ出るそれらの情報に、頭を後ろからハンマーで殴られたような衝撃を覚えた。

一応マスコミの端くれにいるので、女性向けの風俗が日本にあることくらい陶子も知ってはいたが、いつの間にこんなに氾濫していたのか。

「供給があるっていうことは、それだけ需要があるってことでしょ……」

検索エンジンのページで質問をすれば、名前も顔も知らない誰かが答えてくれるのだ。

「ホントに便利な時代になったものだわ」

最初はよくわかっていなかった風俗用語の詳しい違いも、ネット上の誰かが懇切丁寧に陶子に教えてくれた。

まず「ウリセン」とは、元々男性にカラダを売ることを専門とする仕事で、新宿二丁目などに多くある店に属しているボーイと、どこにも属さずフリーで働いているボーイに分かれる。

そして、この彼らを時間で買う女性たちが存在するという。

男性向けの女性のヘルスやソープに比べれば、「ウリセン」の相場は安い。もちろん地域によって差はあるが、大体平均すると一時間一万円から一万二千円。

というのもボーイを店の外に連れ出して、飲んだり、食事したりして終わりということが多いから。つまり、デートの相手として遊ぶだけの場合もある。

とはいえ、不況のせいで店に直接来る客が減ってきているのと、ネットの「出張ホスト」が価格競争を行っていることもあり、最近は更に安くなっている店もあるらしい。

「ウリセン」の店の案内やプロフィールを見ると、ボーイと呼ばれる男の子たちの平均年齢は大体二十歳前後。さすがに三十代はほとんど見かけない。

そして、彼らの時給は大体六千円円前後。売り上げの半分を店が取るためだが、カラダを売る仕事として考えれば、このギャラは決して高くはない。

「お金がもらえて、快感も得られるから安くてもいいっていうの?」

そんな単純なことではないだろう、と陶子でも容易に想像がつく。

パソコンの画面上で無邪気に笑っている男の子たちのプロフィールを見ていると、まるで時代に取り残されたような感覚を陶子は抱いてしまった。

迂闊 (うかつ)だった……」

自分の周りの友人たちを思い浮かべてみても、「最近男を買った!」なんて人は思い当たらない。

それとも皆、内緒で買っていたの? 知らなかったのは私だけ?  男を買う女性たちが増えているなんて……。いつの間に?

再び会うかもしれない、「売る」側のボーイたちと「買う」側の女性たちに、何かザラっとした違和感を覚えた。 それは心のどこかで既に示している拒否反応に違いなかった。

言い換えれば、自分が偏見の塊であることを突きつけられている違和感でもあった。幼い頃から厳しい両親に植え付けられた倫理観。がんじがらめになるのが嫌だったくせに、まだ縛られている。

だからこそ、今回の取材に今まで以上に興味が湧く。

「彼らはどんな気持ちでこの仕事をしているの?」

「どんな女性たちが彼らを買っているの?」

次々と陶子の中に興味と疑問が湧いてきた。一体、 どんな人たちなのだろう。早く会って、話を聞いてみたい。

そう考えながらも、准の美しい横顔がちらついていた。陶子は深呼吸して手帳を開けた。

「よし、今度の水曜日にしよう」

次に「バタフライ」に行く日に印をつけた。その日にさらなる劇的な出会いがあるとは知らずに……。

第3話『豪遊する女たち』につづく

前のページ

次のページ

「ラヴァーズ・ハイ」カニリカ
第2話『美しすぎる横顔』

目次  1   2   3   4   5