ホーム 『ラヴァーズ・ハイ』カニリカ 第2話『美しすぎる横顔』 Page 3

陶子は朝方シャワーを浴びた後、なかなか寝付くことができず、結局そのまま起きて、ジョシュア・レッドマンの新譜を聴きながら、ぼんやりと窓の外を眺めていた。

それは数時間前までの出来事に興奮していたからなのか、疲れすぎて眠れないのか、よくわからない。だけど、昨夜見た光景は、陶子に少なからず衝撃を与えた。

「あんなに若くてかっこいい男の子たちが、体を売っているなんて……」

とても信じられなかった。

テレビをつければ、すぐ画面に出てくる昨今のイケメンと呼ばれる男の子たちとほとんど変わらない。ゴールデンタイムのドラマの中にいても、何の違和感もないような気がする。

強いて言うならおとなしいというか、ホスト達のように「必死にサービスしています!」という、がっついてアピールする印象がなかった。

かつて陶子は、同じく映子に何度か歌舞伎町のホストクラブに連れていってもらったことがあったが、第一印象はかなり強烈だった。ホスト全員が判で押したような同じ髪形に同じようなスーツを着て、シャツの第三ボタン以上を開けている。

カッコよければ壮観なのかもしれないが、陶子にはそう映らなかった。髪は金色に近いような茶髪がほとんどで、すだれのように前髪を伸ばし、トップを高く盛っているのだ。日焼けした肌からのぞくゴールドのチェーンも高価な物かもしれないが、まるでバッタもんに見えてしまう。稼いでお金を持っているはずなのに、そうは見えない。

口を開けば、大して面白い話もしないのに、誰もがなぜか自信満々で、流行 (はや)りの上から目線な言葉遣いで女性客をあしらう。いつも男性客に気を遣っているキャバ嬢や風俗嬢にとっては、このツンデレがたまらないらしいが、陶子はむしろ不快だった。

「お金を払っているのはこっちなのに、なぜこんな扱いを受けるのか」

真剣に映子に文句を言ったら、笑い飛ばされた。

「ハハハ。陶子はマジメねえ。こんなの言葉のSMゲームよ。私なんかいつも命令する方だから、たまに若い男にこんなふうに命令されるの、気持ちいいわよ」

そんな強気のホストのくせに、一歩店を出ると執拗に営業の電話がかかってきて、辟易 (へきえき)した。平日でも昼でも夜でもお構いなしだ。昼間の三時に電話をかけてきて「トウコー、元気? 今、仕事?」と甘ったれた声で聞いてきたときにはさすがに頭に来た。

「仕事に決まってるでしょっ」

ブツッと携帯を切ってしまって、驚いたのは相手のほうだったらしい。

だから、ボーイズバーはそれ以上に必死にアピールしてくるのではないかと偏見を持っていた。またあの居心地の悪い時間をやり過ごさなくてはいけないかと陶子は不安だったのだが、あっという間に時間は過ぎて、気づくと夜が明けていた。

ボーイズたちはまるでカフェにいるのと同じ感覚で、自然体であの店にいるように見えた。

ホストたちのように必死に盛り上げて、一気飲みをしたりするわけでもないし、シャンパンコールをして騒ぐわけでもない。ただ普通に気の合った人たちと話しているみたいだ。アルコールを飲まなくてもいいらしい。

それが陶子にとっては衝撃だった。

彼らはカフェで話すような感覚で客と談笑し、その後、何の抵抗もなく買われていくのだろうか?

しかも、客は女性とは限らない。男性客も多くいる。

ママのミミによれば、ノンケのボーイが多いということだったが、男性に買われるのは平気なのだろうか?

陶子の頭の中はぐちゃぐちゃだった。

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「ラヴァーズ・ハイ」カニリカ
第2話『美しすぎる横顔』

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