ホーム 『ラヴァーズ・ハイ』カニリカ 第2話『美しすぎる横顔』 Page 2

「僕、何かついてますか?」

「あ、ごめん。そうじゃなくて。きれいな顔だなあ、と思って。よく言われるでしょ」

「……言われるけど、あまりそういうの、好きじゃないかな。……お名前は何ておっしゃるんですか?」

好きじゃないと言われて、一瞬下を向いてしまった陶子に、准は丁寧な言葉遣いで訊ねた。

「トウコ」

「トウコさん? 珍しいお名前ですね。どういう字を書くんですか?」

「陶器の陶よ」

「あ、だから、肌がおきれいなんですね」

「え」

かなり年下の男の子から、すごく自然に肌を褒められて、こんなに嬉しいことはなかった。商売用のお世辞だとわかっていても、陶子は心が躍った。

「さすが、お上手ね」

一拍置いてから、お礼の意味を込めて、そう返した。

「僕は本音しか言わないですが……」

ストリート系のファッションから考えても、かなり若いはずの准だったが、言葉遣いと話し方はとても落ち着いていた。

「准君はいくつなの?」

「ほら、始まった! 陶子の徹底取材」

映子は自分の隣に呼んだボーイのことを差し置いて、陶子と准の会話に口を挟んできた。

「気をつけなさい。彼女はクセですぐ質問攻めしちゃうから。気がつくと丸裸にされちゃうわよ」

これは映子流の予防線だった。雑誌の潜入取材だとバレると後々面倒なので、わざとこう言って、マスコミだとわからないようにさせていた。きっとミミも映子の職業は知らないのだろう。

「二十一です」

「わっかーい! 拓真君は?」

准が答えると、陶子よりも早く映子がリアクションした。そして、拓真と呼ばれたボーイも答えた。

「僕は二十三」

拓真のほうが明るい色に染めた髪のせいか、見た目はやんちゃな感じで、准よりも若く映った。だが、圧倒的に透明感は准の方がある、と陶子は勝手に二人を見比べていた。

「ボーイは大体二十代前半よ。二十七とか、もうオヤジ! さ、トウコちゃんはどうするの、准と。ロング? ステイ?」

商売上手のミミは畳みかけるように、陶子に准を薦めてきた。

「彼は指名ナンバーワンなんだから、他のお客様が来たら、取られちゃうかもよぉ〜」

「……え、それは……」

陶子の戸惑いを察した映子がすぐ助け舟を出した。

「ママ、そうあせらないで。今日は私のおごりだからさ、楽しくみんなで飲みましょうよ」

「映子ちゃん、ちょっとー。じゃあ、ボトル入れてよ」

「いいわよ、ドンペリでもクリュッグでも開けて」

「そんな高級なお酒ないわよ。ウチにあるのはJINROよ、JINRO。じゃあ、楽しいお酒をバンバン入れちゃうわよぉ〜」

ロングかステイか? などと迫られ、いきなり准を外に連れ出さなくてはいけないのかと思い、陶子は一瞬ドキっとした。新宿近辺でどこに連れて行けばいいかわからないし、まさかいきなりホテルというわけでもないだろうし……と思いながらも、そのまさかのために新宿のホテルをいくつか頭に浮かべていた。

パークハイアットはいくら何でも高すぎる。だけど、ワシントンでは味気ない。昔よく不倫相手と密会したのはどこだったっけ? とロビーやバーの雰囲気は思い出せるのだが、ホテルの名前が出てこなかった。センチュリーナントカというところまで出かかったところで、ママが叫んだ。

「じゃあ、今日は朝まで飲むわよ〜!」

今夜は何とか飲んで騒ぐだけで済みそうだとわかり、少し安心した陶子はホテルの名前を探るのを止めた。

だけど、准の美しすぎる横顔をつい見ると、ほんの少しだけがっかりした気持ちになったのも確かだった。

陶子はひょっとすると、この時から心の片隅で、「いつか彼を独り占めしたい」と思いはじめていたのかもしれない。

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「ラヴァーズ・ハイ」カニリカ
第2話『美しすぎる横顔』

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