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ラヴァーズ・ハイ
カニリカ

*ラヴァーズ・ハイとは

ラヴァーズ・ハイとは

ラヴァーズ・ハイとは恋愛によって起こる高揚感のこと。脳内にドーパミンから派生した化学物質ノルエピネフリンが分泌される。

第1話『雨の匂い』

存在した歳月を誇示するような木造りの扉に
七色の羽を携えた蝶が停まっている。
あまりの美しさに手を伸ばそうとすると、
その蝶はひらひらと軽やかに舞っていってしまう。

そんな光景と共に美しい男の子たちが記憶に刻まれた。

それは、陶子が生まれて初めて訪れたボーイズバー、 「バタフライ」の第一印象だった……。

新宿二丁目の仲通りからちょっと入った路地の古いビル。

五階でエレベーターを降りると、古い木目の重厚な扉がまず目につく。

会員制と書かれたプレートの下には、綺麗な七色の蝶とともに「Butterfly」と描かれた看板がかかっていた。

重い扉を開けたとき、陶子の目にいきなり飛び込んできたのは、今にもどこかへ舞っていきそうな、きらきらと光を放った若い男の子たち。

ざっと三十人くらいはいるだろうか。

みんな背が高く、スラリと手脚がよく伸びている。

その身体を持て余すことなく、体重をさらりとカウンターやスツールにかけて、緊張するでもなく、油断するでもなく、ボーイズは自然な佇まいを見せていた。

いかにもイギリスのカジュアル・ブランドといった服に身を包んでいるコもいれば、真っ白なTシャツにデニムという、これぞモテ男という出で立ちのコもいる。

とにかくどの男の子もイマドキのソフトワックスで固めたようなヘアスタイルと、かっちり身構えてないストリート系のカジュアル・ファッション。

丁寧に手入れをしているのか、肌もツルツルしている。

しかし、店のママが一声「いらっしゃいませー!」と言うと、彼らはシュッとスイッチを入れ、一斉に陶子を見た。

あからさまに「僕を見て」という熱い視線を送るコ。

いきなりニコっと営業スマイルを投げかけるコ。

クールなままで表情ひとつ変わらないコ。

さまざまだった。

ただ誰もが心の中で「僕を買って」とアピールしていた。

まるで男性アイドルのオーディションに突然放り込まれたようで、陶子はどこを見て、どう反応すればいいのかわからない。

この空間の中で、自分ひとりだけ舞い上がっている。

しばらくの間眠っていた陶子の女脳が揺り起こされ、ドーパミンが一気に噴き出した。

こんな高揚感は久しぶりに味わった気がする。

ホストクラブとは全く違う、男の花園。

そんな禁断の世界の扉を、陶子は開けてしまった……。

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