ホーム 『大江戸怪談あやかし絵草子』外薗昌也 その三 あやかしを煮て食いし話 Page 2

僧侶は湯気をたてる鍋を見つめていたが、微動だにせず、やがて口を開いた。

「…こんな話がある」


あるお殿様が鷹狩りをしていた折、ある貧乏な家に追われたきじが舞い込んできた。雉は驚く夫婦のまわりをぐるぐる回ると、夫の懐に飛び込んだ。ふびんに思った夫婦は、

「このへんに雉が来なかったか?」と訊ねてきたお殿様の使者に

「いいえ」と答えてかくまってやった。

雉を懐から出してやると、慣れた様子で家の中を歩き回った。その姿を見て夫は叫んだ。「親父だ!」

雉の頭には奇妙な瓢箪形ひょうたんがた禿げがあった。まさしく死んだ親父様と同じものだ。

「帰っていらしたんだねえ」妻は奇遇に涙を流した。

……だがその晩、畑仕事から戻った妻が見たのは、ぐつぐつ煮える鍋を前にした夫の姿だった。

土間には瓢箪禿げのある雉の首が転がっていた。

「何をやってるんだい、お前さん」

震える妻の声に振り返った男は、口をもぐもぐ動かしながら

「こうして食われるために戻ってきてくれたんじゃあないか。久しぶりの肉だ。お前も食え」

とにんまりと笑った。

妻は恐れおののき、走っておかみに届け出た。

「転生の父親を食らうとは何事か」

厳しいおとがめがあり、夫は所払いとなり。家督は妻が継ぐことになった。

そこまで話すと、僧侶はすっと近づき、提灯を挙げた。


「さて、その鍋の中、本当にただの鷺ですかな?」



提灯の灯りに照らされた湯の中に、白い髪の束が一踊り揺らぎ、鍋から突き出した〈足〉が、ボトンと音をたてて床に転がり落ちた。

「うげえええっ!」

男たちは弾かれた様に鍋から散り離れ、いっせいに土間にもどし始めた。

落ちた〈足〉にはしなびた五本の指があった。


~根岸鎮衛「耳嚢」宮負定雄「奇談雑史」

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その三 あやかしを煮て食いし話

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