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『大江戸怪談あやかし絵草子』
外薗昌也


その二 鳥殺しの話

「鳥の殺生には気をつけなされ」

縁側で鳥刺し用のモチ竿さおを作っていた茂吉もきちは突然の声に驚き、はっと顔をあげた。

見ると、いつの間に入ってきたのか農具が散らかる庭の中央に独りの老僧が立っている。

ひょろりと痩せた見知らぬ顔にぼろぼろの袈裟けさ。旅の僧だろうか? にしても……。

僧の全身から放たれる異様な気配に気圧されつつ、

「なあに、うぐいすを捕まえようと思ってるだけでさあ。殺生なんざしやせんよ」

茂吉は足元のかごを掲げると卑屈な笑いを浮かべながら答える。

老僧は茂吉の笑顔に応ずる様子は無く、憮然とした表情で頷くと言った。

「近頃こういう話を聞いた」

「はあ?」

茂吉が間の抜けた声をあげる。(なんだ? 何の話だ?)と思ったが、もう遅かった。

戸惑う茂吉を無視して老僧は語りはじめる。


上総国かずさのくにの寺の門前町で戸籍調べがあった時のこと。

一人の百姓の家を訪ねたところ、そわそわして、おかしなそぶりを見せた。

「へえ、まあ、うちは子供三人と夫婦で、あと一人いるかいないかわからないのもいるんですが、へえ、それは除いて五人です、六人かもしれませんが、五人です」

曖昧あいまいな発言を繰り返したため

「なんじゃそれは? 一体何人おるのだ? はっきりと申せ!」

と奉行に厳しく問いただされた。

「そこまでおっしゃるんでしたら仕方がない。お見せして判断していただきましょう」

奉行が誘われたのは一家の住む家の裏手にある小屋だった。

雑草に覆われてよく見ないとわからない、崩れ落ちたような小屋に近づくにしたがい〈ぷうん〉と甘ったるい臭いが鼻を突く。

なんといも言えない異臭。

「豚小屋か? いや、いだことのない臭いじゃ」とひそひそとざわめく付きの者たちを奉行はじろりとにらみつけ黙らせる。

「ここでごぜえます」百姓が傾いた戸をこじ開ける

    〈がたがたがたっ〉

戸を開くと、外の光が差し入り、中を照らし出した。

「あっ」奉行たちはあとじさった。

そこには人が座っていた。

けれども、目鼻口耳の全てが無い〈ぬぺり〉とした白い瓢箪ひょうたんのような頭。

其れが少しの音もたてず動かず、ただ座っている。

「こ…これは一体?」目をき異形を見据える奉行たち。

「これが我が父だったものでごぜえます」

「若い頃、鳥を刺し網を張り、数えきれない殺生をした報いでしょう。にわかに患いつき、こうなってしまいました」

男は母屋からかゆの入った器を持ってきた。

「物を食わせてみましょう」

腰の引けた奉行の前で〈ざあああああ〉男は父の頭上から粥を注ぎかけた。

するとおもむろに頭皮から鳥のくちばしが突き出てきた。

幾つも幾つも無数のくちばしが突き出てきて

    《けーっ》

一斉に鳴き声をあげると粥を貪り喰った。

「これ、人と数えていいんでしょうかね?」

弱りきった目の男の問いに奉行は首を振り、戸を閉じさせたという。

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