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江國香織は、一九六四年三月二十一日に生まれた。

東京オリンピックの年である。

世田谷の小学校に通い、青山の中高一貫校に通った。

高校生の時、角川書店の読書感想文『金閣寺』で、入選した。

目白学園女子短期大学に入学。卒業後、アテネフランセに通った。

その翌年、『ユリイカ』に詩「綿菓子」を投稿、「今月の作品」に入選している。

光村図書の児童文学総合誌『飛ぶ教室』に投稿した「桃子」が、小説としての処女作であるとみなされている。

のう、お客人。あなたも困った方だ。よっぽど好奇心がお強いとみえる。まぁもっとも、覗くなといわれれば覗きたくなるのが、人間の心理というやつでしょうがな。おや、汗をかいておられる。御安心なさい。あいつはあの部屋からでてきやしません。それに、あんな姿はしておっても、生身の人間です。天隆といいましてね、修行僧ですよ、この寺の。

「桃子」(『つめたいよるに』)

問わず語りに、寺に預けられた桃子という七歳の女の子と、僧、天隆の恋物語として展開されていく。桃子の子供らしい残酷さをともなった性癖――蝉や蟻を殺す――が、語り手の僧侶によって否定された後、天隆は、還俗して桃子と結婚しようともくろむが阻まれる。伯母夫婦が、桃子を引き取りに来た日、桃子は「くちばしの赤い、きゃしゃな白い小鳥」になってしまい、一方、読経していた天隆の頭からは「細い茎が十センチばかりのび、青い青い花が咲いているのです。あの花の青さといったら、あたりの声をすいこんで、そこだけ深閑と冷たいようでした。」

ナラティブへの意識。二人の恋がもたらした変身譚。

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「江國香織を読む」福田和也
第一回「父と娘」

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