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江國香織を読む
福田和也


デビュー作「桃子」と「草之丞の話」所収の『つめたいよるに』
フェミナ賞受賞作「409ラドクリフ」掲載の『江國香織とっておき作品集』

写真/福田和也

第一回「父と娘」

江國香織えくにかおりは、江國しげるの娘であった。

という処から、この稿を興したい。

私も物書きのはしくれだけれど、それでも親も書き手である、という事の意味を測りかねている。自分にも、二人の子供がいるけれど、彼らが物書きになるという事態は、想像にあまるものだ。実際問題として、物書きになろうというような了見を発揮したとしたら、張り飛ばしてでも止めるであろう。それでも、なると云われれば仕方がないのだろうが……。

たしかに二世作家であるという事での強み、優位性といった要素はあるだろう。

親が高名である事、親の縁で出版社やメディアに近づき易いこと、書籍、資料が手元にあること、何よりも書き手という、世間的には特殊な生活(おうおうにしてとても不安定な生活)とその文化に親しんでいること。

とはいえ、いかに親が高名であったとしても、それだけで書き続けていく事は、きわめて難しい。

実際の処、この人は、あの人の息子でなければ、娘でなければ、市井の人として、そこそこまともに生きていけたのに……と、思う事が一度ならず、あった。

早く目処めどがついて、この道を諦めた人はよいけれども、間違って新人賞でもとってしまうと、引っ込みがつかなくなって、「何某の娘」、「何某の息子」という事が商売になってしまう。

誠に、気の毒だと思う。

とは云え、改めて語るまでもなく、二代に渉って文芸で名をなした人たちも少なくはない。

森鷗外もりおうがいと森茉莉まり幸田露伴こうだろはんと幸田あや太宰治だざいおさむ津島佑子つしまゆうこ萩原朔太郎はぎわらさくたろうと萩原葉子ようこ吉本隆明よしもとたかあきと吉本ばなな……。

こう並べてみると、どうも男親と娘という組み合わせが多い気がする。

広津柳浪ひろつりゅうろうと広津和郎かずお福永武彦ふくながたけひこ池澤夏樹いけざわなつきという組み合わせもあるが……。余談だけれど、広津和郎は、あの難しく面倒くさい山本周五郎やまもとしゅうごろうをして、水上滝太郎みなかみたきたろうとともに尊敬させたという人物である……。

それでは、江國滋、香織の親子はどうだろう。

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デビュー作「桃子」と「草之丞の話」所収の『つめたい夜に』。フェミナ賞受賞作「409ラドクリフ」掲載の『江國香織とっておき作品集』。

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