ホーム 『村上春樹2011』福田和也 第一回 『ダンス・ダンス・ダンス』 Page 6

「シェーキーズ」と五反田君は言った。「ピッツァでも食べないか?」

「僕は別に構わない。ピッツァは嫌いじゃない。でもそんなところに行って、君の顔は割れないかな?」

 五反田君は力なく微笑んだ。木の葉の間からこぼれる夏の夕暮れの最後の光のような微笑みだった。「君はこれまでシェーキーズで有名人を見掛けたことある?」

シェーキーズの日本一号店が、赤坂に出来たのは一九七三年であるという。

私が、最初にピッツァを食べたのは、一九七〇年、十歳の時で、池袋西武のニコラスでだった。

中学二年生の時に、茗荷谷 (みょうがだに)にピザハットが出来て、昼のバイキングに、何度か押し寄せた。

はじめて入ったシェーキーズは、渋谷の店だったと思う。

当時は高校生にとって敷居が高い店だった。

まあ、ビールを呑むのもおっかなびっくりという時期だから当然ではあるけれど。

大学に入ると、シェーキーズにはよく行った。田町の店、渋谷の店、銀座の中央通りにも、その頃は店があった。銀座に、一番、行ったかもしれない。

『ダンス』において、二人が訪れた店は特定されていない。バンド・スタンドがあり、学生の団体が大声を出している、という事が記されているだけだ。

二人は、ピッツァを楽しみ--「世の中にこれ以上美味いものはないような気がした」--、ビールを呑む。

二人で、ピッツァを一枚食べ、ビールをもう一杯ずつ呑み、もう一枚、ピッツァを頼む。三十代としては、かなりの量になる。

五反田君がカウンターに行き、アンチョビのピッツァを頼み、焼き上がると口も利かずに、その一枚を二人で平らげる。

食べ終わった後にも、沈黙はしばらく居座り、ようやく僕は、その問いを口にする。

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