ホーム 『日本全国津々うりゃうりゃ』宮田珠己 第二回 『名古屋(二)』 Page 2

ところでそういえばこの五色園、単なるB級スポットのようであるが、芥川賞作家の川上弘美がエッセイで触れていて、車ででたらめに走っていて偶然見つけて以来、ときどき通ったと書いている。人形のお坊さんの頭のてっぺんを撫でると心が落ち着いたのだそうだ。

事前にそれを読んだときは、コンクリート人形の一体どこにそんな癒しパワーが潜んでいるのか理解不能だったが、実際に来てみると、実は人形よりもこのだだっ広い自然が彼女の心を癒したのではという気がし、納得がいった。五色園はほとんど人がいないし、静かなので、日和がよければのんびりできる場所である。

が、残念ながら、今日は寒かった。

少しいくと池があってさざ波立つ水面がとても寒々しく、おかげで、はるばる名古屋まで来て、なぜこんなコンクリート人形を見ないといけないのであろうか、時間を無駄に捨てているのではないか、という疑念が脳裏をよぎりはじめたほどだが、それはきっとシャチホコの陰謀であるから、ここが踏ん張りどころと、それじゃあ何か、城を見物すれば時間を有効に使ったことになるのか、ええっ! と虚空に向かって啖呵を切って先へ進む。

次なる見どころは『桜ヶ池大蛇入定の由来』と『お田植え』。『お田植え』は、とりわけ味わいのある作品で、土の地面を田に見立てて足首まで埋まっている表現が秀逸だ。

『御流罪』を見ようと山道を登り、その先に『肉付きの面』があるようだ、肉付きの面てなんか面白そうだな、と思ったら道に迷った。

園の入口で地図看板をデジカメで撮影しておいてそれを参照しながら回ったのだが、この地図が滅法デタラメだったのだ。そうなると、寒さが、俄然身に染みてくる。木の枝にかかる赤い紐を頼りに雑木林の中で右往左往するという、ちょっとした遭難のような事態に、どんどんやる気が失せていった。

おおおお、めっちゃ寒いし、道わからない。

仕方ないから無理やり藪をかきわけかきわけ抜けたところが墓地だったりして、なんだ霊園かよ、と興が覚めてしまい、コンクリート人形なんかどうだっていいな、となげやりな気持ちになったところへ、墓地の先にあった『日野左衛門門前石枕』が非常によかったのでまた持ち直す。危ない危ない。

説明看板を読むのが面倒なので事情はわからないが、何らかの理由により門前払いをくらった親鸞聖人が、門前の石にもたれて眠っており、数ある情景のなかでも個性的な逸品と言えよう。その笠や行李に雪が積もっているなど表現にも工夫の跡が見られる。ちょうど寒かったこともあり、この親鸞には、なんか寒そうという点で共感できた。

その次に見た『鹿ケ谷 鈴虫松虫の剃髪得度』も意外に面白く見たものの、そんなことよりこれ以上はもうダメだ寒すぎる。

というわけでわれわれは逃げるように出口へ向かい、途中『六角堂御参籠 雲母坂お通い』『弁円悔悟』を見たら、それがまたちょっと良かったりして、なんだか少し悔しい気持ちで五色園を退出したのである。

五色園弁円悔悟

前のページ

次のページ

「日本全国津々うりゃうりゃ」宮田珠己
第二回「名古屋(二)」

目次  1   2   3   4