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第二回「名古屋(二)」

さて、桃厳寺を後にし、われわれが次に目指したのは、名古屋でも屈指の珍妙スポットとされている五色園である(正確には名古屋の隣の日進市にあるが、日進を名古屋の衛星と考えれば、名古屋惑星圏の一部であり、これも名古屋と呼ぶことに著者は何の抵抗もない)。

五色園は、今回の名古屋の旅で最も期待している場所であり、わたしに名古屋行きを決心させた2大スポットのひとつである。

ここは少々変な場所で、大安寺という寺の敷地内にある巨大な園庭、その庭のところどころにコンクリート製の人形が立ち並んでいる。なんでも親鸞聖人の功績や教えにまつわるエピソードを、人形で再現してみせているのだそうで、来場者がそうしたジオラマを巡り歩くうちに親鸞聖人への尊敬の念がいや増しに増すという啓蒙のための施設と言えよう。

バスの終点で降りると、門前町も何もなく、かわりに料金所の廃墟みたいなものがあり、その先はもう五色園であった。

案内看板を見ると、園内は想定していた以上に広いようすで、何体もあるというコンクリート人形がどこにあるのか、ここからは目に入ってこない。この日は12月で、昼間でも外を歩くのは寒かったから、広い園内をどれだけ歩かされるのかと思うと気が重くなった。

それでも気力を奮い起こして歩き出したが、われわれのほかに歩く人は誰もいない。歩く人どころか車が一台いたぐらいだ。

やがて道端に見えてきたのは『月見の宴』という人形ジオラマ。親鸞聖人2才のとき、月を見て「南無仏」と言ったとかいうエピソードを表現しているらしい。2才なのにおっさんくさい親鸞の表情に味わいがあり、重点的に観賞する。

五色園月見の宴

はなから親鸞聖人の教えなど知ったこっちゃない見物人で申し訳ないが、説明書きを読んでも何の感慨も湧かないんだからしょうがない。むしろここは、親鸞聖人の業績に感動するというより、人形の表情の面白さを堪能するスポットと考えたほうが実態に即していると思う。

次に見えてきたのが『信行両座』なる人形群で、僧侶が大勢座っており、そこへ新たな僧侶が駆けつけている。看板に説明書きがあったが、これまた読んでもしょうがない予感がするので読まず、僧侶たちの表情を観賞した。十数人の僧たちは、色を塗り直されたばかりらしく、ツルツルテカテカでペタペタだったが、どの人形もコンクリート製でありながら、人間らしい表情がうまく表現されており、一体一体個性すら感じられるのは見事な造形と言っていい。寒さを忘れて見ているうちにだんだん、これが名古屋なのか、という静かな感動が胸に湧き上がってきた。 

五色園信行両座

珍景と言ってしまえばそれまでだが、これは案外侮れないのではあるまいか。この表現力には十分な敬意を払うべきではないか。

その後『赤山明神貴婦人邂逅』『身代わりの名号』とたて続けに見物。こちらは塗り直してから時間が経っていて薄汚れており、今覚えたばかりの感動がこころなしか萎む。人形の清潔感は、思いのほか重要なようだ。

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